教員が定時に帰れた理由「どの子もその日に納得」(木村泰子)

教員が定時に帰れた理由「どの子もその日に納得」(木村泰子)
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 前回のオピニオン欄で、大阪市立大空小学校の実践から若手教員がリーダーシップを発揮する「L研」とベテラン教員が若手教員を支える「B研」について述べたところ、「大空小の校務分掌について知りたい」という要望をいただいた。それを踏まえ、今回は困っている子どもに全面的に対応する、大空小の「CC部」について伝える。

若手が伸び伸びと対話できる校務分掌

 大空小でまず取り組んだのは、校務分掌の改革だ。真っ先になくしたのは企画会議だった。企画会議は、学校における大きな課題をする場だが、そこで決めたことは職員会議で覆せないといった空気を生み出してもいた。それでは若手教員が伸び伸びと自分の意見が出せなくなると、最初に廃止したのだ。

 さらに、それまであったさまざまな部会も全て廃止した。職員会議だけは記録を残す狙いもあって置くことにしたが、その他の「◯◯部会会議」などの会議は一切開かないこととした。代わりに置いたのが前回伝えた「L研」「B研」で、月1回の職員会議の他は放課後の会議がない分、L研のメンバーが日々職員室で対話をして、学校行事などを決めていた。B研はそれを小耳に挟みはするものの、口は挟まない。「これは失敗しそうだな」と思いながらも、フォローするのは失敗した後だ。そうでなければ若手教員の主体性がなくなり、ベテランに「お伺い」を立てるようになってしまうと考えた上でのことだった。

L研・B研と子どもをつなぐ「CC部」

 それでも「これに関してはL研は不得手だ」と判断したものがある。それは、困っている子どもへの寄り添い方だった。それに伴う保護者との関わり方についても、教員としてまだまだ学ぶ要素が多分にあるというのが、L研メンバーならではの弱点だった。

 そこで、組織としてL研・B研とは別に、「チャイルド・コンサルティング部」を立ち上げた。通称「CC部」で、子どもが困っていたり子どものことで困ることがあったりしたら、全面的に対応するというのがその役割だ。

 もし子どもが困っている様子を見せたり、トラブルを起こしたり、教員と言い合いになったりしたら、教員は何を置いてもCC部に報告する。本拠地は職員室にあり、CC部のメンバーの誰かには必ず連絡が取れる体制にしてあるので、報告を受けたCC部が即座に対応するのだ。CC部のメンバーは、若手教員にとってもベテラン教員にとっても「子どものことを相談したい」と思える人物が選ばれることとなった。その結果、CC部のメンバーに決まったのは3人。養護教諭と特別支援教育コーディネーター、そして私だった。

 いずれも、ただ「校長だから」「養護教諭だから」と役職だけで決まったのではなく、「子どものことにすぐ対応してもらえて、信頼できる人間」として選ばれた。特別支援教育コーディネーターについても、障害のあるなしにかかわらず、全校児童の困り事を一番に把握しており、「今困っている子は誰か」とアンテナを高くしながら、学校中をオールフリーで走り回っていた。この3人がCC部を構成し、職員室には私か養護教諭のどちらかが常駐して、すぐに連絡を受けられるようにした。やむを得ずどちらも不在だというときは、教頭が連絡を受け、CC部の3人の誰かに伝える体制を取った。

その日のうちに対応する

 自負しているのは、一度も後手に回らなかったことだ。困っている子がいたら、CC部ですぐに作戦会議をして、「誰かが一緒に家に行こう」「◯◯先生にまず話を聞いてもらおう」といった、その日にできる最も良い方策を考えて対応していった。何よりも重視したのが、「子どもがその日のうちに納得して家に帰ること」だった。

 学校で教員と言い合いしようと友達とけんかしようと、納得して家に帰れば、次の日も「おはよう」と学校に来られる。また保護者も、学校でわが子にトラブルがあったとなれば問い合わせたりクレームを入れたりしたくなるところだが、子どもが「自分は納得しているから、何もしなくていい」と言えば安心するだろう。結果として、会議を職員会議のみとしたことなどもあり、大空小ではどの教員も定時で帰ることができるようになった。

「不登校ゼロの奇跡」へ

 CC部が教員にもたらした重要な成果はもう一つある。それは、教員を誰一人孤立させなかったことだ。

 子どものことで問題が起きたとき、一人の教員がどれほど懸命に対応したとしても、授業やさまざまな書類作成がある状況ではどうしても限界がある。その中で子どもに「先生嫌いだ」と言われたり、保護者からのクレームを引き受けたりするうちに、若手教員は学校を辞めていってしまう。教員の仕事は、絶対に一人でできるわけがないのだ。そこにCC部があれば、困っている子に向き合った時に、「自分では無理だ」と判断してつなげられる。その判断や「人につなげた」という経験は、若手教員の「人を活用する力」のアップデートにも寄与していた。

 ベテラン教員にとっても同じことだ。ベテラン層は今までの価値観に固執しがちだが、そうした古い価値観で子どもと向き合ったら、その指導力が強い権力となり、やがて子どもにとっては「言葉の暴力」にもなって、子どもの「学校に行きたくない」という気持ちにつながってしまう。そうならないよう子どもへの対応の根幹を握るのも、CC部の重要な役割だった。

 CC部がある限り、教員が一人で悩みを抱えることも、子どもが教員の指導に苦しむこともない。それが、大空小の代名詞のように言われる「不登校ゼロの奇跡」につながったのだろう。

 

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