岡崎市小中学校長会長 加藤 有悟
新幹線を新神戸駅で降りて市バスに乗り、東に10分ほど行くと「横尾忠則現代美術館」があります。軽やかに創作活動を続ける横尾忠則さん(美術家、作家)の「不思議な世界」を紹介する展覧会やイベントを行うユニークな美術館です。
昨年、企画展「横尾忠則 原郷の森」が開催されました。主人公Yが、ピカソ、キリコ、ウォーホル、黒澤明、谷崎潤一郎などと時空を超えて語り合うという、本人著書のコンセプトをもとにした展覧会でした。鑑賞する者の既成概念を揺さぶるような作品群でした。この展示の中で、横尾さんはキリコに「Y、視点という技術だよ。私も君と同じように少年の視点だよ」と語らせています。
『人類学者と言語学者が森に入って考えたこと』(教育評論社、2023)は、人類学者でボルネオ島の狩猟採集民(プナン)と生活した奥野克巳さんと、言語学者でタイ・ラオスの狩猟採集民(ムラブリ)と生活した伊藤雄馬さんの作品です。森で生活する人々の具体的な生活や行動をもとに、私たちが「当たり前」だと思っていたことが思い込みにすぎないことに気付かせてくれたり、思っても見なかった見方や考え方を示してくれたりする興味深い著作です。
本書の中で奥野さんは、「他者の観点(パースペクティブ)に立って、自分たちが見ている世界とは違う観点から世界を捉えることを「パースペクティヴィズム」と呼ぶ」と定義し、その意義と価値を提起しています。「パースペクティヴィズム」は実感が湧きにくい言葉なので、私は「視点を移す術(すべ)」と言い換えています。
私たちは日々、「問題・課題」に直面しています。その量は多く、質も多種多様です。英語の表現を借りれば、「problem」「trouble」「matter」「issue」「question」「subject」などです。
さらに、「問題・課題」の中には答えがないものも少なくありません。時折、くじけそうになります。そこで私は、「視点を移す術」を使えば問題の捉え方が多面的になり局面を打開できるのではないか、「視点を移す術」を駆使すれば創造的な仕事ができるのではないか、と仮説を立てています。
現在、「視点を移す術」の体得を目指して修行中です。
(岡崎市立南中学校長)