子どもを包む風呂敷 若手教員の即興劇から地域に(木村泰子)

子どもを包む風呂敷 若手教員の即興劇から地域に(木村泰子)
【協賛企画】
広 告

 前回のオピニオン欄では、大阪市立大空小学校で立ち上げた「CC部(チャイルド・コンサルティング部)」について述べた。今回は、このCC部と同時に立ち上げた車の両輪のもう一方、「C部」について伝える。

「大空劇団」結成

 前回伝えたCC部は、若手でつくるL研と、ベテラン層でつくるB研、そして子どもの三者をつないで、子どもへの対応の根幹を握る存在だ。もう一方のC部とは、「コミュニティ部」の略。「学校と地域をつないで、コミュニケートする部」として、CC部と同時に立ち上げた。CC部の中心がB研であるのに対し、C部の中心を務めるのはL研のメンバーだ。

 C部が果たした役割を説明する上で分かりやすいのは、終業式での働きだ。どの学校でも終業式には必ず生活指導に関連した話があり、「明日からの長期休みで地域に迷惑を掛けないように」などと呼び掛けるが、私はかねてから、「子どもにしてみたら『また言ってる』『分かってるのに』と感じるばかりで、何一つ自分をアップデートすることにつながらない」と考えていた。だから、「終業式の生活指導をやめよう」と提案したのだ。

 教職員に、「毎年子どもに同じことを言っているが、長期休みに入ると『万引きしました。警察に引き取りに行ってください』といった連絡が入る。終業式で指導されても行動が変わらないなら、意味がないからやめるべきだ」と説明したが、これに対しC部の若手教員は「終業式で何もしなくていいのだろうか」と検討を始めた。その結果、C部が考え出したのは、若手教員で「大空劇団」を結成し、子どものさまざまな問題行動を演じて見せるというアイデアだった。

問題行動を即興の芝居で

 L研のメンバーがもっとも生き生きと活動していたのは、この大空劇団だったように思う。団の教員は、普段のように先生らしく行動したりはしない。お笑いの出ばやしの音楽をかけながら体育館の舞台に登場し、「自転車で2人乗りをしていて、ぶつかって転倒しけがをした」「友達に『ジャンプしてみろ』と言い、チャリンチャリンという音が鳴ったら『お金を持ってるな』とかつあげする」「たこ焼きを焼いているおばちゃんをからかう」など、思い付く限りさまざまな問題行動を子どもたちに見せた。終業式のたびにこうした劇をだいたい3本ずつ演じていた。

 かつらをかぶったり、警察官の衣装を着たりと、子どもが劇に入り込みやすいような工夫を凝らしてのことだ。こうした衣装や小道具は公費で購入した。「大空劇団」の名称は正式な校務分掌として市教委にも提出していたが、よく見ていないのか特に指摘は受けなかった。

 大空劇団の劇は即興の芝居だ。当初、団長を務めた教員が「練習時間に1時間取る」と提案したのを、B研が止めたためだ。「練習なんかしても素人の劇が面白いわけがない。子どもに受けるのは即興だ」と伝えた。そのため団員は終業式の朝になって初めて、その日に見せる3本の劇のあらすじを聞き、役割を決めた。そして、「子どもたちに何を考えさせたいか」を話し合ってテーマとして共有した。このテーマの他は全てアドリブだ。子どもたちが大好きな若手教員による即興劇は大いに喜ばれ、あまりの面白さに地域住民や保護者、卒業生までが大挙して見に来るようになった。

 大空劇団のもう一つの特徴は、まとめがないことだ。終わったら教室に戻って、休み中にどんな行動を取るかを、自分の言葉で書いて指標にする。子どもが行動を自分で決めるということだ。

学校のキャパシティーが広がる

 大空劇団が始まってから大きな変化があった。休み中の問題行動を地域などから知らされることがなくなったのだ。代わりに、子どもたちが「自転車を止めたら駄目なところに止めて怒られた」「水道の水をまいて叱られた」などと言って、職員室に助けを求めてくるようになった。教職員からしたら、「悪いことをした」とわざわざ職員室に自己申告しにくる姿は奇妙に感じられたが、子どもたちは懸命に「校長先生、謝りに行ってみて」などと訴えてきた。

 この「助けて」と訴える子が、地域の人と私たち教職員をつなげる存在になっていった。そしてここでつながった地域の人が、「学校のためにできることが山ほどある」とフォロワーになってくれた。C部の若手が新しい発想で作り出した取り組みが、子どもを包む風呂敷をつないで、学校のキャパシティーを広げていったのだ。風呂敷に隙間が空いていたら、B研のメンバーがつないでいくという形で、チームがつくられていった。

 C部は新しいアイデアを次々と生み出し、命を守る学習を展開させたり、学校独自の教科「ふれあい科」で大学と提携した井戸掘りをして災害への備えを考えさせたりした。C部のこうしたさまざまな活躍については、今後のオピニオン欄でいずれお伝えしたい。

 

広 告
広 告