貸与型奨学金を使って大学などの高等教育機関で学んだ女性は、奨学金を借りていない女性と比べて結婚のタイミングが遅く、子どもの数も少なくなる傾向にある――。慶應義塾大などの研究チームが全国の社会人男女約570人を対象として、貸与型奨学金の利用状況と家族形成の関連を調べた結果、こんな実態が明らかになった。専門学校や短期大学に通った女性ではこの傾向が特に顕著だったといい、研究グループは「女性が低賃金であることや、大卒と短大卒の賃金格差が家族形成に負の影響を与えている可能性がある」と指摘している。
研究成果は英国の学術誌「Studies in Higher Education」に掲載された。
今回の研究では、慶應義塾大経済学部附属経済研究所が2017年、高校生や大学生、社会人を対象として、中学校以降の教育歴や成績、貸与型奨学金の利用状況、結婚した年齢、子どもの数などを尋ねたアンケート調査を活用した。1006人の有効回答のうち、高等教育を受けた経験を持つ20~49歳の社会人(男女568人)の回答を分析対象とし、奨学金の利用が結婚や子どもの数といった家族形成に影響しているかどうかを調べた。
この結果、奨学金が家族形成に与える影響は性別によって異なることが分かった。男性については、貸与型奨学金を利用したグループと利用しなかったグループの間で、結婚する確率や子どもの数に意味のある差は確認されなかった。これに対して女性では、利用したグループの方が結婚する年齢が明らかに遅くなる傾向が確認され、35歳の時点では、利用しなかったグループよりも既婚割合が13㌽低かった。こうした傾向は、特に専門学校・短大卒の女性ではっきりと観察された。
また、貸与型奨学金を利用したグループの女性は、利用しなかったグループよりも子どもの数が少なかった。利用したグループの方が結婚する割合が低く、結婚した場合でもそのタイミングが遅い傾向にあることが、子どもの数にも影響したとみられる。
研究チームで中心的な役割を果たした同研究所の王杰(ワン・ジェ)特任講師(教育社会学)は今回の結果について、「日本では男性より女性の方が賃金が低く、特に短大卒が低賃金であることが家族形成に負の影響を与えている可能性が考えられる。少子化や非婚化の解決には、奨学金制度の改善が必要であることを示唆している」と指摘。一方、「今回の研究はサンプル数が少なく情報不足もあるため、厳密な因果関係は確定できない」として、「国などの公的機関が規模の大きな調査を実施し、確かなエビデンスに基づいて奨学金制度の改善策を議論していくのが望ましい」と話す。