【校内別室】居場所作りから学びの意欲へ 荻窪高校の不登校支援

【校内別室】居場所作りから学びの意欲へ 荻窪高校の不登校支援
生徒たちとトランプをする別室指導支援員の須藤楽人(がくと)さん(左から2番目)=撮影:秦さわみ
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 東京都教育委員会は今年度、不登校の生徒に対し、教室とは違う別室で学びを続けられる仕組み作りを、都立高校17校で始めた(参考記事:【不登校】家庭と教室の間をつなぐ 都立高の校内別室指導)。その中の1校、都立荻窪高校では、昨年6月からこうした校内別室指導の取り組みを推進。安心できる雰囲気の中、生徒が徐々に学びへの意欲を取り戻すなどの成果が見られる一方で、不登校生徒に関わる教員や支援員の間で、共通理解を図ることの難しさも分かってきたという。

「学校的」なものをなるべく入れない空間

 校内別室指導実施校に指定された都立荻窪高校(馬飼野光一校長、生徒542人)では昨年6月、新たに「荻高アジール」と呼ばれる部屋を設けた。アジールとは、「聖域、自由領域、避難所」の意味。部屋の入り口近くに学習や作業ができる作業机と電源があり、奥に進むと窓際にソファーと丸机、クッション、ギターなどが置かれている。本やボードゲーム、水槽などもあり、くつろいだ雰囲気だ。

 アジールの開室に尽力した瓦田尚主幹教諭は、こうした環境について「ソファーを置いたり、靴を脱いで過ごしたりといった部分を大切にした。生徒用の机のような『学校的』なものをなるべく入れず、場所としての安心感を目指した」と説明する。

 アジールは平日の午前11時から午後7時まで利用でき、年の近い大学生スタッフが支援員として、教員と連携して生徒と接する。現在、利用しているのは約10人。対象となるのは、担任や生徒支援担当の教員が「別室指導が適している」と判断した生徒で、保護者の同意の上、教員や支援員との面談を経て利用できるようになる。

 同校は昼夜間定時制(三部制)で単位制をとり、4年間での卒業が基本だが、最大6年間在籍できる。アジールで授業動画を見るなどして学習した場合、状況により単位を取得することも可能だ。教室に入ることが難しい不登校生徒にとって、別室でも単位認定ができる意義は大きい。さらに、高卒認定試験などに向けた自習に使うこともできる。

まずは来て、人間関係を作るステップが必要

 ただアジールでは、まず生徒が安心できる居場所を作ることを重視している。すぐに学びに向かうことが難しいケースがあるからだ。瓦田主幹教諭は「不登校生徒の中には、何事も意味を見いだせなければ取り組めないケースも少なくない。そういう生徒に対し、『とにかく勉強してみよう』と学習させるのは、ハードルが高過ぎる。まずはアジールに来て、人間関係を作るステップが必要になる」と話す。

 6月から利用しているある生徒は、当初は1時間ほどだった滞在時間が、秋以降は3時間、6時間と長くなっていった。そのうち他の生徒と話をするようになり、自分から支援員に、不登校のきっかけを語ったという。生活習慣が徐々に朝型になるとともに、「学びたい」という意欲が出てきて、現在は自ら学び直しに取り組んでいる。

 一方、今後の課題について、自立支援担当の根岸良和主任教諭は「不登校の生徒を取り巻くステークホルダーには、担任や学年の教員、不登校支援に関わる教員、支援員などがいるが、そこでの共通理解を図ることは容易ではない」と話す。

 「生徒は自分のペースで来て帰りたいと思う一方で、担任はどうしても生徒の様子を細かく知りたくなることもある。ただ、あまりに管理的に接してしまうと、生徒は学校から足が遠のいてしまう。担任とはオープンに情報共有しつつも、アジールの居心地の良さが損なわれることがないよう、目線を合わせていきたい」と根岸主任教諭は語る。

都教委「来年度も成果を検証していく」

 都教委の担当者によれば今年度、校内別室指導の対象となった学校の多くは、準備期間を経て、2学期から本格的に取り組みを開始している。「別室があることで学校に来られるようになった生徒や、別室で過ごす期間を経て、教室での授業にも出られるようになった生徒などがおり、一定の成果が表れている。またNPO法人の職員や大学生など、年齢の近い支援員と話ができることで、安心感につながっている」と担当者は話す。

 一方でこの取り組みでは「いずれは教室に戻り、他の生徒と協働しながら学ぶことを目指している。引き続き、別室指導の成果を検証していく」とも話し、都教委は来年度も同じ17校で、校内別室指導の取り組みを続ける。

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