本紙電子版4月11日付で報じられているように、滋賀県の公立中学校3年生で新年度のクラス分けを発表した後に、配慮が足りなかったケースがあったとしてクラス分けのやり直しがなされることとなった。この学校では3年生の始まりが1週間遅れる事態になっている。
記事の中では、この問題についての教育関係者のコメントが紹介されている。コメントにあるように、今回のケースではおそらく深刻な見落としがあり、一定の覚悟をもってクラス分けのやり直しという判断に至ったものと考えられる。また、今回のケースが報じられたことがきっかけとなり、他の学校でも保護者からクラス替えの要望が出され、混乱が生じることが懸念される。
学級制度は近代以降の日本の学校教育の基盤を成すものであり、学年に複数の学級があれば、当然、どこの学校でも学級編制が行われてきた。学級編制においては、児童生徒の成績や体力のバランスをどう取るか、配慮を要する児童生徒をどの学級担任の学級に配属させるか、などが考慮されることが一般的であろう。そして、深刻ないじめなどがあった場合には、加害者を被害者と別の学級にするなどの配慮が必要となる。さまざまな条件を満たす必要があるため、学級編制の作業は複雑であることが多く、教員には大きな負担となる。
学級編制の具体的な方法が、オープンに語られることは少なかった。具体的な配慮事項を公表できないこと、具体的な方法に対する要望が出されるようになっても対応が事実上不可能であることから、オープンには語られにくかったものと考えられる。
今回は学年11学級とのことなので、一定の配慮をして学級編制を行うこと自体は、それほど難しくなかったはずだ。例えば、配慮が必要な生徒についてまず先に所属学級を決め、残りの生徒を成績順で機械的に各学級に割り振っていき、最後に微調整するという方法で、大きな困難なく学級編制作業ができたのではないか。
当然ながら学級数が少ないと、一定の条件を満たす学級編制は難しくなる。1学級であれば配慮のしようがなく、2学級の場合でも、児童生徒AとB、BとC、CとAがそれぞれ同じ学級ではまずいような場合には、全ての条件を同時に満たすことはできない。必要な条件の数によるが、2~4学級で、条件の数がある程度多いと、全ての条件を同時に満たすことが困難となり、一部の条件を満たすことを諦めざるを得なくなる。
学級編制をどうするかという問題は、数学あるいは情報科学でいう「最適化問題」にあたる。人の手で試行錯誤するとかなり時間がかかることが多いが、コンピューターでプログラムを組めば、容易に最善レベルの解決策を導出することができる。
教員の業務負担を減らすことを考えると、一定の条件を入れて、そうした条件を全て満たす学級編制案を出力させるプログラムを学校が使えるようにするとよいのかもしれない。ただし、学級編制に関する情報は機密性が高く、コンピューターに入れることが漏えいにつながるリスクを考えると、コンピューターの利用も容易には進まないだろう。
このように考えると、重要なことは、配慮すべき条件をできるだけ少なくすることであると言える。配慮すべき条件が増えるほど、配慮が難しくなり、今回のように見落としも起こりやすくなる。学級数に比して配慮すべき事項が多ければ、そもそも全ての配慮をすることができない場合も出てくる。配慮すべき条件をできるだけ少なくすることが、必要な配慮を行うために重要である。
具体的には、学校の教職員は、「学級編制についてご心配のことがあればうかがいます。しかし、必ずしもご要望に応じられるものではありません」という一貫した態度を保護者に示すことが必要だ。児童生徒の状況を把握するために、心配なことはしっかり聞く必要がある。その上で、深刻ないじめの加害者を被害者と別学級にするというように、必要性が高い条件を優先して学級編制を行う。
年度途中の要望に対しては、「年度途中の学級編制変更には応じられない」という姿勢が必要だ。学級編制変更が求められるほど深刻ないじめが生じているのであれば、いじめ加害者を一時的に教室に入れずに指導するなどの対応を取るのが筋であろう。
他方で、児童生徒や保護者の懸念に対しては、丁寧に話を聞き、学級内で必要な対応を取る必要がある。基本的には新たな学級で人間関係をあらためて構築できるようにするべきであろうが、特定の児童生徒と直接関わることに不安を抱いている児童生徒がいる場合には、本人や保護者と相談して必要な配慮をする。例えば、座席を離したり同じ班や係にしないようにしたりすることは可能であろう。
同時に、学級が個々の児童生徒に与える影響をもっと減らせないかと考えることも必要だ。現状では多くの場合、学級内の児童生徒が相互に関わる機会は非常に多く、同じ学級の児童生徒同士は「友達」として仲良くすることを求められる。学校行事でも、学級全体での協力が求められる場面が多い。個別あるいは少人数ごとの学習の機会を増やしたり、学校行事を学級とあまり関係ない形で実施したりすれば、誰かと同じ学級にいることによるストレスを軽減できるはずである。