生徒指導の在り方が、子どもの人権や多様性の観点から問い直されている。埼玉県立新座高校に勤務する逸見峻介教諭は、「生徒指導部」を「生徒支援部」に改称し、校則の見直しを中心になって進めてきた。インタビューの第1回では、2022年度に大きく変わるまでの過程と、「生徒支援部」の名称に込めた思いを聞いた。(全3回)
――2年前から新座高校では学校のルール、校則の見直しを進めてきました。具体的にどのような点を変更したのですか。
頭髪や服装のルールを見直しました。以前は校則違反の髪型をしている生徒がいたら、もちろん生徒と相談はしていましたが、「カットし直してきなさい」などの指導が中心でした。そうした指導は人権侵害になりますし、生徒にはお金もかかることなので、切らせる指導は廃止しました。
――ツーブロックも認めているのですか。
そうですね。基本的には認めています。ただし奇抜過ぎるものは経過観察を基本とし、これまで以上に生徒と対話をすることにしました。実際のところ、面接などで用いられるツーブロックと、学校で駄目だと言われるツーブロックにはギャップがあるとも思います。世間で言うツーブロックは私から見るとかなりライトな髪型です。学校で問題になるのは短く刈り上げている部分と、伸ばしている部分の差がかなり極端なものです。実際に学校では、世間で報道されていないようなさまざまなケースが存在するのも事実だと思います。そのため、生徒との対話をより重要視するように変えていきました。
――他にもありますか。
生徒会からの提案がきっかけとなり、制服の着用ルールも見直しました。スカートとスラックスから選べるようにし、防寒コートもピーコートかダッフルコートに限定するのをやめ、色や素材、形状なども大幅に見直しました。そもそも今の高校生は普段、ピーコートやダッフルコートは着ないんです。
スマートフォンの所持や使用のルールにも課題があったので変えました。もちろん、ルールを守らない生徒への指導は必要ですが、問答無用で行っていた数日間の預かり指導をやめて、当日には返却することにしたのです。
以前は違反が重なると、3日、5日、1週間と段階的に預かっていました。しかも土日を含まずに日数をカウントしていたので、預かりが3日の場合は木曜日に預かると返却が月曜日になっていました。でも、週末にスマホがないと、生徒はアルバイトの連絡が取れないし、学校外の生活にも支障が出ます。この指導では学校生活の範疇を超える内容にもなるので、当日返却に切り替えました。
――校則見直しを推進したのが「生徒支援部」ということですが、「生徒指導部」から改称したきっかけについて教えてください。
そもそも生徒指導はガイダンスとカウンセリングの機能を前提にしている概念ですが、どうも指導の部分に比重が置かれ過ぎて、問題が起こってしまっていると感じていました。そこで「生徒支援」に名称を変えて、組織体制の見直しが進められたらよいと考えました。生徒「指導」の良い部分を継承しながらも、時代性を鑑みて、より良い組織にしていきたいと考えていました。
問題行動を防ぐには日常的に生徒と関わることの方が大事ですし、さまざまな場面で多様性への配慮が不可欠です。そういった日常の指導も含めて、「自立に向けた支援を目指す」方がしっくりくると思い、「生徒支援部」に変更しました。
私は社会科教員なので、人権には特に敏感だった部分もあると思います。ちなみに、全国の公立高校で生徒指導部の名称を変更した事例を探したところ、すでにいくつかありました。私立では「キャリア支援部」などと呼んでいる学校もあるので、そういったことも参考にしています。
――生徒支援部に改称するにあたり、校内でどのような働き掛けや手続きを取ったのですか。
まず管理職に相談しました。基本的には学校には「生徒指導主任」を置くことになっていますが、校内の分掌名として「生徒支援部」とすることには問題がないということを確認してもらいました。その後、分掌の会議、職員会議で提案し、同意を得ました。
うれしかったのは、長く勤務していた先生などを中心に「うちの学校は、生徒支援部という名前の方が合っている」と賛成してくれた人が多かったことです。そもそも新座高校では、先生たちが小まめに生徒と面談をしたり連絡を取ったりして、自立・自律に向けて支援する関わり方をしていました。勤務校の素晴らしい文化も、この名称にすることで表現できるのではないかと思いました。
また、生徒や保護者に対しても、「支援です」と説明することで、われわれの生徒に向き合うスタンスを伝えられるとも思いました。
――名称を「生徒支援部」に変えてから、校則の見直しを進めたのですか。
校則などのルールの見直しの流れの中で、名称変更も提案したという形です。むしろ先行していたのは、校則の見直しの方だったと思います。
――校則を変えるのに時間はかかりましたか。
問題提起をして1カ月以内に変わったものもあれば、「来年度から」のように時間がかかったものもありました。
すぐに廃止したものの一つに「違反者清掃」があります。かつて学校が荒れていた頃、謹慎などになった生徒に対して、学期終わりに地域での清掃活動をさせていました。そのための教員加配もあったのです。その後、学校が落ち着いて加配がなくなってからも清掃活動は続いていました。
その後、引率する教員が足りなくなった関係で、校内の雑務を手伝わせる形に変わりました。その当時も「成績処理などの多忙な時期に、すでに指導が済んでいる生徒たちを再び呼び出す必要があるのか」という声はありましたが、見直されないまま2022年まできていました。
この規則は二重懲罰と受け止められかねません。長期休業前に指導をしたいのなら、教員がその生徒の実態に応じて、個別に面談などで伝えればいいのではないかと考えました。廃止を提案したところ、すぐに「そうしましょう」という話になりました。これがすぐに変えられたものの一例です。昔の校則や指導が、その成り立ちが忘れ去られたり、運用が変更されたりして「謎ルール」化しているケースは、全国的にもたくさんあるんじゃないかと思います。
変えるときは単独で提案するのではなく、周囲から情報収集することを大事にしました。ベテランの先生に、規則が作られた当時の経緯を聞いたり、他校の教員仲間に「うちの学校にはこういう指導があるんだけど、そちらの学校はどう?」と聞いたりしました。すると、違反者清掃をやっている学校は皆無に等しく、廃止を提案することに確信を持てました。
【プロフィール】
逸見峻介(へんみ・しゅんすけ) 埼玉県立新座高校教諭。1988年、埼玉県秩父市生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科を修了後、埼玉県立高校の教員(地理歴史)に。ワークショップデザイナー、NPO法人「School Voice Project」理事、みんなのルールメイキング教員アンバサダーの顔も持つ。新座高校では校則や生徒指導の見直しに着手し、生徒指導部を「生徒支援部」に改称することに携わる。