「生徒指導」から「生徒支援」へと発想を転換し、校則の見直しをリードしてきた埼玉県立新座高校の逸見峻介教諭。ホームページに校則を公開するまでには、あちこちに散らばったルールの「棚卸し」が必要だったという。明らかに「おかしい」と分かっていても変えられない校則の裏には、スクラップ&ビルドが苦手な学校の体質が垣間見えると話す。(全3回)
――生徒支援部が提案して職員会議を通れば、すぐに変わる校則もあったとのことですが、逆に時間をかけて変えていった校則はありますか。
制服です。2022年に制服の着用ルールの見直しが、生徒会から生徒支援部に提起されました。ただ、制服に関しては生徒だけ、生徒支援部だけでは変更できないんです。本校には「制服検討委員会」という別の委員会があり、生徒支援部の他に生徒会や養護教諭、教頭なども加わり、そこで制服についての議論を行っています。ネクタイとリボン、スカートとスラックスなど、選択制にするなら制服メーカーとの打ち合わせや交渉も必要です。
議論を始めた22年度内には間に合わず、翌23年度から段階的に実現し、24年度の新入生からスカートとスラックス、リボンとネクタイが選択できるようになりました。
その間も、できることから始めようということで、登校時にセーターを上に着る「セーター登校」も認めるようにしました。以前は登校の際には、シャツとジャケットのみを許可していましたが、セーターでの登校も許可しました。生徒たちもこのルールに不便さを感じていたので、変更になったことをかなり喜んでいました。
本校は駅から距離があるので、体調や気候に合わせて服装を変えられることには、健康面から見ても合理性があります。柔軟なルールに変更することで登校へのハードルが下がる効果もあると思っています。小さいことかもしれませんが、生徒の服装への関心は高いのです。
――新座高校はホームページに校則を公開しています。A4判で5ページにわたっていますが、作成するのに苦労はありましたか。
散在している校則やルールを地道に集める作業から始めました。校則といっても最初から一本化されていたわけではなかったんです。生徒手帳には校則が掲載されていましたが、それとは別に新入生に配布する冊子もありました。さらには、生徒手帳には載っていないけれどもクラス掲示の端に書かれているルール、明文化されておらず教員が口頭で連絡しているルールなど、いろいろな決まり事が至る所に散在している状況でした。これでは生徒たちには分かりにくく、知らないうちに校則違反をしてしまうことにもなりかねません。
例えば、居酒屋でのアルバイトは禁止なのですが、それが新入生向けの冊子には書いてあるのに、生徒手帳にはありませんでした。これでは、生徒からは「聞いていない」「そういう校則があると知っていたら、やらなかった」という不満が出てきて当然です。こうした行き違いは四六時中起きていて、教職員も困っていました。
こうした状況を解決すべく、生徒支援部で校則にまつわる文書や、文書化していない事項を洗い出し、「生徒心得(校則)」にまとめてホームページ上で公開することにしました。PDFファイルを張り付けるだけではなく、新座高校の生徒支援部が何を目指しているのか、生徒にどうなってほしいのかといった理念もホームページ上に明記しました。
【ホームページの掲載文】
新座高校は学年団をはじめとして、多様な生徒に対して共通理解を目指し対話を重視した、きめ細かい「支援」を行ってきました。これらは新座高校の教員集団の強みであり、学校の文化です。もちろん生徒の自立のために時には厳しく指導することも必要ですが、それは最終的に生徒の自主・自律を促す支援の1つであると考えています。
ここは私がこだわっていた点で、生徒支援部の所信表明だと思っている部分です。現場の先生たちのことを考えながら、心を込めて書かせてもらいました。
――校則を整理、統合して公開したことで先生は指導しやすくなりましたか。また、学校の雰囲気は変わったでしょうか。
生徒に対して「学校のルールや校則はホームページに載っているから確認するんだよ」と言えるようになりました。また、この取り組みを通して教職員の意識も変わったと思います。23年度、私は育休を取得して現場を離れていたのですが、同僚教員からは「分かりやすくなった」「みんなの意見が反映されて、ボトムアップな雰囲気に変わってきた」といった前向きな話を聞いています。
でも、整理した校則をホームページに公開したからといって、校則の見直しが完了したとは思っていません。まだ道半ばです。本来的には生徒自身が議論し、保護者へのヒアリングなどの手続きを踏むことが必要です。もっと進んでいる学校では改廃のプロセスを明確にした上で、「人権侵害に当たる校則は作らない」などと掲げています。
生徒には日常生活でおかしいと思っていること、不便に感じていることを自分たちで探して声を上げるよう促したいです。それが発展して「そもそも校則とは何だろう」と、生徒や先生たちの議論が普通にできるようになったらいいと思っています。
校則は社会の仕組みに照らしてみると、何に該当するのか当てはめるのが難しい存在です。刑法的な要素もあるし、道徳的な規範といった側面もある。憲法に通じるような要素もありますし、奥が深いテーマです。校則や生徒指導を通じて生徒にどうなってほしいかについても、「規範意識を持ってほしい」「進路への意識を持ってほしい」「社会参画の視点を養いたい」など、学校や教員によってさまざまな想いが背景にあると思います。
生徒指導提要には、校則をホームページで公開することが示されたものの、実施まで進んでいない学校も多くあります。ホームページに掲載することは、学校や教員が生徒指導で何を目指すのかを問い直す、良い契機になるのではないでしょうか。
【プロフィール】
逸見峻介(へんみ・しゅんすけ) 埼玉県立新座高校教諭。1988年、埼玉県秩父市生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科を修了後、埼玉県立高校の教員(地理歴史)に。ワークショップデザイナー、NPO法人「School Voice Project」理事、みんなのルールメイキング教員アンバサダーの顔も持つ。新座高校では校則や生徒指導の見直しに着手し、生徒指導部を「生徒支援部」に改称することに携わる。