中教審特別部会が5月13日、教職調整額を現行の4%から少なくとも10%以上に引き上げる方針などを盛り込んだ「審議のまとめ」を取りまとめた。働き方改革に関連したこれらの国の動きについて私が、「働き方改革の目的と手段を取り違えている」と捉えていることは、前回のオピニオン欄「教職調整額アップでは解決しない 過ちを繰り返すな」で伝えた。
今、日本の学校で解決が急務とされる「教員の長時間勤務」、「教員の休職・退職」、そして「不登校」。これらは実は、根幹に同じ問題を抱えていると私は考えている。
大空小学校で私は、抜本的な学校改革をした。それまであった分掌や委員会は全て廃止し、「◯◯部会」などの会議も大小さまざまあったのを、職員会議の他は全てやめた。
そして新たにつくったのが、リーダーとして学校運営の中心を担う若手教員の「L研」と、そのL研を下から支えるベテラン層の「B研」であることはすでに伝えた。この仕組みをつくるに当たって実現したかったのは、教員がチームになって互いに助け合い、補い合いながら、伸び伸びと力を発揮できる職員室だ。
そしてこのL研とB研をつなぐ存在として「チャイルド・コンサルティング部」、通称「CC部」を立ち上げたことも、すでに伝えたとおりだ。子どもが困っていたり、子どものことで教員が困ることがあったりしたら、何を置いても即座に対応するCC部。このCC部が教員に一人で悩みを抱えさせなかったことが、結果として、職員会議以外の会議を全て廃止したこととも相まって、どの教員も定時で帰れるという成果も生み出していた。
こうした学校改革を迷わず進められたのは、最上位目的を「全ての子どもの学習権を保障すること」に定めていたからだ。全ての子どもが納得して下校し、翌日また元気に「おはよう」と登校する学校をつくる。そのために必要なことだけに照準を合わせていたから、大空小の代名詞のように言われる「不登校ゼロの奇跡」と、教員がやりがいをもって働ける学校を実現できたのだろう。
私は、働き方改革とは「職員室改革」だと考えている。教員にとっても子どもにとっても、学校の心臓部は職員室だ。この職員室を、誰もが弱音を吐けて、困っている時に助けを得られる、いわば安全基地にすることが重要で、そのために全教職員が合意して職員室を改革していくというのが、私の考える働き方改革だ。
大空小にも精神疾患と診断されて服薬している教員や、休職から復帰したばかりの教員はもちろんいたし、発達障害と診断され投薬を受ける子どもが全国から50人を超えて、大空小へ転入してきていた。しかし、教員も子どもも環境が調整されたことで薬を飲む必要がなくなり、当たり前に毎日学校へ来ることができるようになっていた。
「不登校」「発達障害」というレッテルを貼られていたものの、大空小へ来てそのレッテルが剥がれた子どもたちの言葉を借りれば、大空小には全ての子が吸える空気があった。その空気とは、多様な子が当たり前に過ごせる環境が生み出すものだ。
そしてその環境は、多様な大人がつながり合って、大きな風呂敷で子どもたちを包み込んでこそできる、子どもが伸び伸びと学び合える場だ。ベテランも若手も含めたみんながチームになって、互いに適切な依存をし合い、保護者や地域と力を合わせることで生まれる環境だ。
精神疾患で辞めてしまう教員や、学校に来られない子をゼロにするために必要なのは、指導ではない。学校という組織の環境を変えることだ。そしてその学校という場で中心に位置するのが職員室だ。大空小で実施したL研、B研、CC部などの立ち上げをはじめとした学校改革は全て、職員室を変えるための手段だった。
国が進めようとしている働き方改革は、多様な子どもを多様な大人が包み込む風呂敷とは全く逆を行く職員室を生みだしてしまうのではないか。
「教員の誰かが残業するのは変えられないから、教職調整額を引き上げよう」「若手をサポートする中堅教員の職をつくろう」「教諭の上に新たな級を置こう」「学級担任は大変だから、特別手当を出そう」――。
これらがもたらすのは、教員の分断だ。給与で教員間に格差が付けられ、立場が上の人間が下の人間に指図するといった、分断された職員室だ。教員同士が過剰な競争意識でつぶし合ったり、ベテランや管理職が自身の経験に従って若手教員を型にはめて指導したりするといった、あしき当たり前が常態化してしまう。
教員間に分断があれば、そのしわ寄せは全て子どもたちに向かうだろう。分断は対立を生むだけだ。教員が対立すればその空気を子どもが吸って、子どもたちの中に分断や対立の空気が生まれる。学校で組織が分断するというのは、絶対にあってはならないことだ。
しかし今、国が進める教員の働き方改革は、教員を分断させる方向にかじを切ろうとしている。全ての子どもの学びを保障するという最上位目的に今一度立ち返り、その手段としての働き方改革を一から見直してほしい。