名古屋市教育委員会教育支援部義務教育課首席指導主事 杉山 美津夫
2024年度から、組織の最小単位の見直しに伴い名称が変更され、名古屋市教育委員会の指導部指導室が、教育支援部義務教育課・特別支援教育課・高等学校教育課に再編された。指導室という名称は、1958年から使われ、約65年間、主に「学校教育の指導に関すること」の業務に当たってきた。名称が変更しても業務内容は変わることはないが、3年間、指導室に勤め、学校現場が苦悩し、対応が難しい2点の課題に触れたい。
いじめ防止対策推進法の制定により、いじめの定義が明文化されて10年がたつ。しかし、いまだに「いじめの認知」が課題になっている。その理由の一つは、いじめの定義が社会通念上と大きく異なることにある。
義務教育課には毎日、多くの市民から声が寄せられる。その中で、突然、こんな電話がかかってきたことがあった。「好きな子に付き合ってほしいと告白をした。しかし、丁寧に断られた。告白した子はとても苦しみ先生に相談した。これはいじめか」。全国の教育委員会にこの問題をいきなり示し、いじめの定義を正確に理解しているか、聞いているという。いじめ防止対策推進法では、被害者が苦痛を訴えれば、このようなケースでも「いじめ」として認知せざるを得ない。学校では日々、けんかやトラブルが起きている。そこで、双方が苦痛を感じることがあれば、いじめの定義に従い、双方をいじめとして認知し、カウント、報告することが求められている。一校一校のいじめの認知件数に厳しい目が向けられていることは認識する必要がある。しかし、大切なのは、日頃から子どもの様子をよく観察し、子どもの変化やSOSのサインを見逃さず、声を掛けることである。先生がいつも見ていてくれるという安心感を子どもたちに持たせたい。
学校と保護者は共に子どもの成長を願い、同じベクトルで理解・協力しながら信頼関係を築いていくことが大切である。しかし、中には、保護者からの一方的な要求を受けて学校が疲弊し、当事者の子どもすら置き去りにされているケースもある。また、弁護士を通して過度な要求への回答を学校に文書で求めるケースもある。このような保護者にどう向き合っていくとよいのか、なかなか有効な解決策がない。各学校においては、保護者と学校がよりよい関係でつながっていられるよう、学校で誰か一人でも保護者と話し合える関係づくりが必要である。教育委員会においても、学校の代理人として弁護士が保護者と直接やりとりできるような法務相談体制の整備を進めていきたいと考えている。