今期の教育振興基本計画のコンセプトの一つである「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」は、子どもたちだけでなく、教職員もその対象である。そのための環境を整え、学校改善を進めていくことが校長の職責となった。といっても、具体的に学校改善を進めていくのは一人一人の教職員である。教職員が主体的に学校経営や学校改善に参画していくことが、自らのウェルビーイングの向上につながっていく。では、自身の立場で学校改善をしたいと考えた場合、どのように進めていくべきか。教職員と校長の視点で考えていきたい。
教職員の勘所1:具体的な提案を
学校には、その学校のルールやこれまでの経緯で続いているやり方がある。「前任校ではこんなことはしていなかった」「効率が悪い、もっといい方法はないのか」と不満を抱くこともある。特に異動者はそんな感覚を持ちやすいだろう。しかし、それを口にしても改善にはつながらず、職場の雰囲気を悪化させるだけだ。
それより問題の本質と具体的な改善策を提案すれば、学校はポジティブな方向に動いていく。それこそが主体的な学校経営への参画であり、組織への貢献にもつながる。
教職員の勘所2:組織として動く
学校は組織として動いている。事案決定の仕組みに代表されるように、組織には検討の場面やチェックの仕組みがあり、それにのっとることが基本だ。それにより、一人の問題意識はより多くの教職員で共有され、改善策の検討がなされる。多様な意見の中に最適解や納得解を見いだすこともできるだろう。
もちろん、事の重大性や緊急性に鑑み、管理職に進言することも必要である。それが危機管理であり、決して躊躇(ちゅうちょ)することはない。
教職員の勘所3:常に問題意識を持つ
「学校をよりよくするために」「働きやすい職場にしていくために」といった問題意識を持っていると、学校改善の視点が明確になり、改善策も見えてくる。主体的に学校改善を考え、組織として実行していくことは「働きがい」につながる。協働しながら働きやすい環境を創っていくことで、ウェルビーイングは実現していく。学校改善は、小さなアイデアの積み重ねで進んでいくのだ。
校長の心得1:心理的安全性の確保
「心理的安全性の確保」は、全ての組織に求められている。2022年の中教審答申「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」においても、「特に『心理的安全性」の確保は、様々な課題に対応できる質の高い教職員集団を形成するために不可欠である。(中略)萎縮せずに意見を述べたり、前例や実績のない試みに挑戦する教師を支援できる環境を醸成したりすることで、学校内外で発生した問題を教職員が一人で抱え込むことなく、組織としてより最適な解を導き出すことが可能になる」と指摘している。
心理的安全性の確保は「緩い組織」をつくることではない。組織目標に向かって邁進(まいしん)する熱い組織、学び続ける組織である。そのためにも、ビジョンの共有、学校経営計画の浸透が不可欠である。
校長の心得2:教職員の声を聞く
こども基本法の理念が浸透し、子どもたちの声を教育施策に反映することが必須となっている。では、管理職は学校改善に向けて教職員の声を聞いているだろうか。学校評価は生かされているだろうか。
校長の思いは時に独善的になる。教職員の声はそのことに気付かせてくれるだけでなく、学校をよりよくするためのアイデアを示してくれる。学校改善の主体は教職員であり、その声にこそ価値がある。校長はそれを端緒に、学校改善を加速させていくべきだ。
ただ、教職員の声をそのまま実現するだけでは職責を果たしたことにはならない。実現可能性や学校経営計画との整合性、継続性や他への影響などを視点に考え、判断していく過程で、校長としての見識が問われることになる。
校長の心得3:校長としての覚悟を持つ
コミュニケーションの要諦は、伝えることではなく聞くことに専念することだと言われる。教職員のさまざまなアイデアをよく聞き、支障のない限り応援していきたい。その支障を想定し、取り除くことも校長の仕事である。
サントリーの創業者、鳥井信治郎氏は「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」と社員のチャレンジを後押ししたという。そこには、最後は自分が責任をとるという覚悟がある。校長の覚悟次第で学校改善を加速することができる。