お金の本質を学び、自分と社会の関係を考える 横浜創英中でPBL

お金の本質を学び、自分と社会の関係を考える 横浜創英中でPBL
お金の本質について語る田内さん=撮影:松井聡美
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 自分のやりたいことを実現するために必要なのは、お金ではない━━。横浜市の横浜創英中学校(本間朋弘校長、生徒423人)で、ベストセラーとなっているお金の教養小説『きみのお金は誰のため』の著者である社会的金融教育家の田内学さんを講師に迎えたプロジェクト型学習が行われた。生徒たちに出された課題は「お金は一切使えないけれども、おいしい食べ物屋を開きたい。誰にどんな協力をしてもらえばいいか?」というもの。7月2日には、本科コースの2年生と3年生が田内さんにプレゼンし、フィードバックを受けた。

お金という道具を介して人々が支え合っている

 プロジェクトの初回となる6月7日の授業では、田内さんによる講演が行われた。田内さんは生徒たちに「仲間か愛かお金か、どれが大事か?」などの質問を投げ掛けながら、お金の本質に迫っていく。

 「国立競技場の建設には1500億円かかったが、エジプトのピラミッドの建設にかかったお金は、今の価値だと『A.4兆円』『B.1250億円』『C.0円』のどれだと思うか?」と問いを投げたところ、生徒たちの回答は圧倒的に「C.0円」が多かった。

 田内さんは「ピラミッド建設当時は、お金が存在しなかった。だから『労働』と『自然資源』さえ確保すればよかった。国立競技場の建設も、元をたどると『労働』と『自然資源』に行き着く。つまり、働いてくれる人がいないとピラミッドも国立競技場もできなかったということだ」と説明した。

 そして「お金がモノをつくるのではない。お金はモノやサービスと交換できるように見えるが、社会全体を見ると、お金は増えることや減ることもなく、流れているだけだ。人々が働くことと、自然資源によって、人々が幸せになっている。お金という道具を介して、人と人が支え合っている」と生徒たちに語り掛けた。

 その後、生徒たちには田内さんから課題が出された。それは▽おいしい食べ物屋さんを始めたい。多くのお客さんに来てもらいたい▽条件として、お金は一切使えない。ただし、誰とでも親友になれる特殊能力がある▽誰と親友になって、どんな協力をしてもらうか?━━というもの。

 田内さんは「実際にお店を開くとなった時に、どういう人が必要なのか、どういうものが必要なのかということも調べてほしい。さまざまな人に話を聞くなどして、机上の空論ではなく、実際に社会で使えるようなビジネスモデルを考えていこう」と話した。

 そこから生徒たちは約1カ月、2~3年合同で4~5人のプロジェクトチームになり、課題について考えていった。中学2年生担任の前川智美教諭は「最初、お金が使えないという条件に苦労していたようだった。しかし、チームで考えていくうちに段々と必要なものや協力者、実務的な部分が見えてきたようだった」と生徒たちの様子を振り返る。

 また、プロジェクトチームは異学年でランダムに組まれており、普段は決まった友達としか話さない生徒も、それぞれの強みを生かしながらチームで協力してミッションに取り組んでいたという。前川教諭は「チームによっては、田内さんから求められていた枠を超えて、自分たちでさらに学びを発展させていた」と手応えを話した。

生徒は田内さんが投げ掛ける問いを考えながら、お金について学んだ=撮影:松井聡美
生徒は田内さんが投げ掛ける問いを考えながら、お金について学んだ=撮影:松井聡美

やりたいことを実現するには、協力者や仲間を増やす

 7月2日には再び田内さんを招き、生徒たちはチームごとにプレゼンした。例えば、ホットドッグ屋を始めることにしたチーム。お店は、1人暮らしをしている高齢者の自宅の1階を借りるという。「場所や電気、ガス、水道などを使わせてもらう代わりに、高齢者の生活の手伝いをする」と、ウィンウィンの関係性を築くことを考えていた。

 また、インフルエンサーに紹介してもらいやすいように、お店を今人気の古民家風にしたり、材料となるパンや野菜などは売れ残りや規格外のものを使ったりすることで、食品ロスを減らすことも考えていた。

 「山deフルーツ狩り&Cafe」をプレゼンしたチームは、山では春にいちご狩りや秋にシャインマスカット狩りなどが楽しめ、カフェではフルーツを中心としたスイーツを展開するという。ソーラーパネルを設置し、環境にもやさしく、電気代も削減できるよう工夫する。

 山の管理者と親友になることで、最初は土地を無償で貸してもらうが、安定してもうけが出るようになれば、山の管理者に場所代を支払っていく計画だ。また、小中学生の職場体験に活用してもらうことで、人件費を削減するなどのアイデアも発表した。

 生徒たちのプレゼンについて田内さんは「難しい課題だったが、よく考えてくれた。なにより、プレゼンのまとめ方が非常に分かりやすくて、驚いた」と感心した様子。また「インフルエンサーにお店を紹介してもらう」というチームが多かったことに触れ、「インフルエンサーにとっても、そのお店を紹介することによって、自分のフォロワーが増えないと情報を流す意味がない。そこまで考えていたグループもいくつかあり、素晴らしかった」と講評した。

 田内さんは「この課題を通して、協力者や仲間が増えた方が、いろいろなことが実現しやすいと気付いてもらえたのではないか。例えば、このお店を知ってもらうことで貧しい子どもたちが救われるなど、社会のためになる新しい取り組みをしていると、協力者や仲間も増えていく。『自分のやりたいことは、社会のためにならないか?』を考えてみるといい」と生徒たちにエールを送った。

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