探究学習では「子どもたちに委ねる」「子どもたちを全肯定する」教員の勇気が必要━━。ふるさと納税を活用した自治体クラウドファンディング「鎌倉スクールコラボファンド」を活用した探究学習に関するシンポジウムが7月13日、神奈川県鎌倉市の鎌倉芸術館を会場に行われた。シンポジウムには鎌倉市の教職員や市民、寄付者など100人以上が参加。実践者の市内小中学校教員と鎌倉市の高橋洋平教育長、前鎌倉市教育長で現在は文部科学省初等中等教育局教育課程課の岩岡寛人氏らが登壇し、本音で探究学習のワクワクやモヤモヤについて語り合った。
鎌倉市の各小中学校では、「鎌倉スクールコラボファンド」を活用し、子どもたちのリアルな課題を企業や大学など外部リソースの協力を得て解決していく探究学習に取り組んでいる。
この日は昨年度の各校の実践が語られるとともに、教員から見た探究学習のワクワクやモヤモヤについても語られた。鎌倉市立深沢小学校の久保真理教頭は、探究学習に取り組んでいる際に「教員がやらせたいこと」と「子どもたちがやりたいこと」のずれに悩んだという。そこで、同市の探究学習をサポートしているNPO法人未来をつかむスタディーズ代表の河内智之氏に相談したところ、「子どもたちに委ねる」「全肯定する」とアドバイスされた。
久保教頭は「最初はそのアドバイスに教員たちは不安を感じたが、思い切って大胆に子どもたちに委ねてみた。どうしても教員は『あれは駄目だよね』『これはできないんじゃないか』と考えがちだが、子どもたちの発想に『いいね!』と肯定していく勇気が必要だ。探究学習のモヤモヤを解決する一歩は、教員の勇気なのではないか」と実感を込めた。
また、参加者からの「多忙な中学校の現場で探究学習の価値や意義を全職員でどう共有していったのか」という質問に対し、同市立深沢中学校の畔上悠教諭は「探究学習での生徒たちの変化を動画などで見せると、面白そうだからやってみたいと言ってくれる教員が増えていった。中学校でも探究学習をやりたいと思っている教員は多い。ただ、どうやってやればいいのか、どういう準備が必要なのかで悩んでいることが多い」と答えた。
高橋教育長は「例えば『探究島』という島があるとすれば、そこに向かって率先して飛び込んでいける人もいれば、準備をしてからという人もいるし、様子を見てから目指そうという人もいる。そこに行こうとしている人を応援するということも、一つの支援だと思う」と話し、「鎌倉でも全員が『探究島』にいるかというとそうではない。やれるところから一歩ずつ上がっていくことが、探究への道なのではないか」と述べた。
続く「探究学習に求められるこれからの在り方」をテーマに行われたパネルディスカッションでは、改めて「なぜ探究学習が必要なのか」について、前鎌倉市教育長の岩岡氏が講演した。
岩岡氏は、学習指導要領で示している「学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性など」「実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能」「未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力など」の資質・能力の3つの柱について、「これまでの一斉授業だけでは、ペーパーテストで点はとれても、こうした資質・能力は身に付きづらい。だから『どのように学ぶか』というところにも焦点を当て、主体的・対話的で深い学びを実現していこうと提唱している」と説明した。
また、探究学習の「①課題の設定」「②情報の収集」「③整理・分析」「④まとめ・表現」の4つのサイクルのうち、一番重要なのは「日常生活や社会に目を向け、学習者自らが課題の設定をすること」だと強調。その理由について、生成AIの活用事例を示しながら「調べて、整理、分析して、まとめるのは、生成AIの方が圧倒的に速くて得意だ」と説明した。
岩岡氏は「生成AIが特別なものではなく、標準的になってきている社会を子どもたちは生きていく。一方で、適切に課題設定さえできれば、字や計算や絵が苦手な子でも、それらを機械に助けてもらいながら、自分の実現したいことを実現できる世の中になってくる。だからこそ、課題の設定を含めた探究学習が決定的に大事になってくる。これは数年後に改訂される次の学習指導要領でも、大事な視点になってくる」と話し、「皆さんが取り組んでいる実践は、社会的に非常に意義のある大きな取り組みだ」とエールを送った。
これを受け、高橋教育長は「非認知能力は探究的な学びで培われていく面が大きい。また、答えがない時代だからこそ、自分なりの答えを考え抜くということが大事ではないか」と話し、「探究は先が見えないから不安だし、怖いけれども、子どもたちがワクワクして探究するには、まず先生たちがワクワクすることが大切だ。子どもと大人の学びは相似形。ワクワクで全部つながった鎌倉の探究になっていけたら」と今後の展望を述べた。