いじめ重大事態調査ガイドライン 明確な法的根拠を(藤川大祐)

いじめ重大事態調査ガイドライン 明確な法的根拠を(藤川大祐)
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法的根拠があいまいだと、どれだけ順守事項を定めても違反は生じやすい

 本紙電子版7月12日付で報じられているように、文部科学省は7月12日、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」とする)の改訂案について、同日から8月2日までパブリックコメントを実施するとした。

 現行のガイドラインは2017年に策定されているが、その後も学校や教育委員会などが法やガイドラインに反した対応をして問題になるケースが繰り返されており、今回の改訂案では学校や教育委員会などの対応がきめ細かく示されている。量的にもかなり多くなっており、現行が別紙を含めて16ページであるのに対し、改訂案は別添資料なども含め65ページに及ぶ。なお、今回の改訂案は従来、別に定められていた「不登校重大事態に係る調査の指針」(16年、10ページ)をも統合したものだ。

 これまで、ガイドラインには、法的根拠があいまいだという問題があった。いじめ防止対策推進法には、ガイドラインについての規定はない。また、現行ガイドラインにも、自らの法的根拠についての記載は見られない。あえて法的根拠を説明しようとすれば、いじめ防止対策推進法第11条が規定する国のいじめ防止基本方針(17年改定「いじめの防止等のための基本的な方針」)において、いじめの重大事態についてこの方針およびガイドラインにより「適切に対応する」と書かれていることを根拠にするしかないと思われる。このように法的根拠があいまいであるため、学校や教育委員会などがガイドライン違反を指摘されても、自分たちの非を認めない状況が生じやすくなっていた。

 残念ながら、今回の改訂案でも、ガイドラインの法的根拠はあいまいなままである。この点を変えなければ、ガイドラインの中でどれだけ学校や教育委員会などが順守すべき事項を定めても、違反は生じやすいままだ。本来はいじめ防止対策推進法を改正してガイドラインの法的な位置付けを明記すべきだが、法改正が難しいということであれば、せめてガイドラインを国の基本方針の一部として位置付けるなどして、法的な根拠を明確にすべきだ。

ガイドライン改訂案、改善に向けた10のポイント

 改訂案の内容を見ていこう。多くの点で、これまでの問題点を踏まえた適切な内容となっていると考えられるが、いくつか気になる点がある。ここでは気になる点を列挙していきたい。

 ①調査委員の報酬について、もっと踏み込んでほしい

 調査組織の設置にあたり、調査委員の報酬などに対する予算の確保の必要性が書かれていること(8ページ)は重要であるが、もっと踏み込んだ記載が必要だ。調査にあたっては弁護士などの委員が、他の仕事を休んで、聞き取りや報告書作成に時間を割くこととなるのであり、そうした仕事に見合った報酬が用意されることが当然である。しかし、時間あたりの報酬が非常に安価であったり、報告書作成などの個人業務のための予算が用意されていなかったりと、報酬が十分に支給されない状況が見られる。この点について、踏み込んだ記載が必要だ。

 ②収集した資料の取り扱いについて詳細な記載を

 資料の収集・保存については一定の記載があるものの(18ページ)、調査組織が収集した資料の扱いについての記載が足りない。調査組織は学校や教育委員会などの問題点に関わるヒアリングを行うこともあり、そうした資料の扱いには注意が必要である。限られた職員に守秘義務を誓約してもらった上で管理してもらうなど、具体的な検討が必要だ。

 ③不登校重大事態の調査主体を「原則として学校」とすべきではない

 不登校重大事態については、原則として学校を調査主体とするとされているが(20ページ)、これは今回の改訂で削除してほしい。不登校重大事態において、学校や教育委員会などの対応が遅く、被害者側が教員などに対して強い不信感を抱いている場合が多い。学校を調査主体とすることを原則とする必要性は全くないので、混乱を避けるために削除してほしい。

 ④調査組織に第三者 「望ましい」ではなく「必須」に

 調査組織に第三者を加えることについては「望ましい」とされているが(22ページ)、これは必須とすべきではないか。第三者による検証も受けないのであれば、重大事態になってもならなくても、対応が同じになってしまいかねない。重大事態になっている以上、少なくとも第三者による検証を必須とすべきだ。

 ⑤被害者側に必要十分な説明がなされるように

 重大事態調査を行う際の被害者側への説明について、「説明が必要である」(25ページ)とはされているものの、説明の内容についてはどこまでを必須としているのかがあいまいである。例えば、一定のフォーマットに従った説明文書を渡すことを義務付けるなど、必要十分な説明が必ずなされるようにすべきだろう。

 ⑥聴き取り調査の時間は目安とし、心身の健康に留意

 聴き取り調査について「全体として1時間以内で終わるようにし」(33ページ)とあるが、これは非現実的である。小学生であれば1時間程度を上限としてもよいかもしれないが、中学生・高校生や大人であれば、90分程度で設定することもやむを得ないだろう。一律で時間を定めるのでなく、時間は目安とし、対象者に無理な負担をかけないように留意するのがよいだろう。児童生徒への聴き取りにあたっては、医療職もしくは心理職の委員が参加することを推奨し、対象者の心身の健康に留意できるようにすべきだ。

 ⑦調査主体が被害者に経過報告すると、不信感を抱かせる場合も

 被害者側への経過報告は第三者委員会でなく、基本的には調査主体の者が行うことが考えられるとあるが(35ページ)、これも非現実的である。ここでは、「第三者委員会の調査委員が説明すると、調査に係る意見や要望を調査委員に伝える機会となり、公平性・中立性が確保できない可能性があるだけでなく、適切な検証に影響を与える可能性が出てくる」とされているが、要望が出されることは否定されることではなく、要望が出されることで適切な検証ができなくなるとは考えにくい。むしろ、被害者側が調査主体に対して不信を抱いている場合が多く、調査主体の者が説明することで、調査の状況が偏って伝わり、第三者委員会に対する不信感を抱かせる恐れがある。

 ⑧調査すべき点に不足はないか、被害者側と丁寧に確認を

 被害者側への調査結果の説明に関して、調査漏れがある場合や新たに調査すべき事項が出てきた場合などには追加調査が望ましいとされているが(40ページ)、これについてはもっと踏み込んだ記載がほしい。調査報告書の完成に至るまで被害者側に十分な説明がなされず、調査結果が説明された際に被害者側から強い不満が出されることが多い。調査結果については、一方的な説明ということではなく、被害者側との間で調査すべき点に不足がないのかを丁寧に確認するということを定めるべきである。他方、被害者側が調査組織に対して不信感を抱くなどして、調査組織との連絡が拒まれてしまう場合もあることから、連絡ができない場合にどのような対応が必要かについても記載を望みたい。

 ⑨調査報告書の公表は、国で最低限の基準を決めるべき

 調査報告書の公表について、「特段の支障がなければ公表することが望ましい」としつつも、学校の設置者および学校が「適切に判断すること」とされている(40ページ)。現状では、公表についての教育委員会などの対応は分かれており、積極的に公表するところもある一方で、ほぼ公表していないところも見られる。公表については学校や設置者側での対応が難しいことから、国で最低限の公表基準を決めるべきだろう。例えば、少なくとも調査報告書の提出から3年以内に、報告書の提出があったことと、提言された再発防止策の内容を含む形で、調査報告書の提出に関する公表をするなどのルールを定めてはどうか。

 ⑩必要となる各種様式の提供を

 改訂案では、別添資料として「いじめ重大事態に係る申し立て様式」が示されている(49~50ページ)。このように重大事態対応に関連して必要となる各種様式が提供されることは、調査などを円滑に進める上で大変意味のあることである。調査方針説明文書やヒアリング協力依頼文書など、他の様式についてもぜひ定めてほしい。

 おそらく、私だけでなく第三者委員会の委員経験者には今回の改訂案についてさまざまな意見があるはずだ。文科省が委員経験者からどこまで意見を募っているのか分からないが、意見がある人はパブリックコメントで意見を出していく必要がある。私も、上記の点について意見を出し、文科省の対応を注視したい。委員経験者の経験が適切に反映され、重大事態対応の抜本的改善につながるようなガイドラインの策定を実現していきたい。

 

 編集部注:パブリックコメントへの意見はこちら。いじめの重大事態の調査に関するガイドライン改訂案の全文なども読むことができる。

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