教師力・人間力―若き教師への伝言(79) 「子どもたち」ではなく「この子」

教師力・人間力―若き教師への伝言(79) 「子どもたち」ではなく「この子」
【協賛企画】
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 30代の頃、校内授業研究会で総合的な学習の時間の授業実践を公開しました。授業が終わった後の協議会では、さまざまなご指摘をいただいたのですが、「子どもたち・・・・・は良い雰囲気で授業に臨んでいた」「子どもたち・・・・・からたくさんの意見が出ていた」「子どもたち・・・・・が本気で話し合いに臨んでいた」などと褒めてくださる声だけが耳に残り、一人で有頂天になっていました。

 その後、養護学校(現特別支援学校)に勤務することになりました。指示が全く届かず、何をやってもうまくいきません。先輩の先生方が子どもたちと楽しそうに過ごしている様子を見ると、自分のふがいなさに涙が出ました。それから、とにかく先輩のまねをしようと心掛けました。

 A先生は、遊びの時間、遊具で遊ぶことなく座っている子の隣に座り、その子の目線を観察していました。自分から動こうとしない子に対して無理に手を引っ張って強制するのではなく、子どもの興味がどこに向いているのかをつかむことの大切さを学びました。B先生は、毎日迎えに来る保護者に、一日の生活でのよかった姿について笑顔で伝えながら、家での様子を聞いていました。できないこと、苦手なことだけに目を向けて、直そう、変えようとすることがいかに愚かなことであるかを学びました。さらに、保護者から教えてもらうことが子どもへの支援・指導に役立つことについても学びました。

 こうした学びを得て、その後の特別支援学級での実践に生かしました。生活単元学習でお店屋さんごっこをしたときのことです。C児は、友達の行動をよく見ている子で、家でもそれをまねするほどだと保護者から聞きました。こうした姿を捉え、お店屋さんの仕事をがんばっている友達の隣に配置にすることで、自分の与えられた仕事に集中して取り組むことができました。

 「子どもたち」と称して集団で漠然と子どもを捉えるのではなく、「この子」として一人一人をかけがえのない存在として捉えていくことの大切さを、特別支援教育から学び、自分の腹に落とすことができました。

 現在問題となっている不登校状態にある子どもたち。全校で○人という単なる数字ではなく、「この子」一人一人それぞれの違う状況を浮かび上がらせ、困っている「この子」に合わせ、オーダーメードの対処法を探っていく必要性が生じるのです。

 久しぶりに、前述した30代の頃の総合的な学習の時間の授業実践ファイルを見ました。そこで、何枚かの座席表が目にとまりました。中には、驚くような記述があり、過去の自分はこの授業で、「この子」を生かすことができたのだろうかと猛省しました。

 著名な教育者、東井義雄先生は、「どの子も子どもは星、それぞれの光をいただいて、まばたきしている」と詩に記しました。今改めてこの言葉を噛みしめています。ただ、「一人一人を輝かせる」という言葉を一度聞けば、すぐそのようにできるわけではありません。こうした子ども観は、とかく曇ってしまいがちです。教師自身が磨き続けなければなりません。わたし自身も、一人一人の「この子」を大切にしていく姿勢を磨き続けていく、そしてこのことを教職員に伝え続けていきたいと考えています。

 (山田浩一・豊橋市立福岡小学校長)

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