いじめの重大事態調査ガイドラインの改訂に向けて議論している文部科学省の「いじめ防止対策協議会」(座長・新井肇関西外国語大学教授)の今年度第2回会合が8月23日開かれ、改訂案に対してパブリックコメントが894件寄せられ、重大事態調査の目的として「対象児童生徒の尊厳を保持するため」の文言を追記するなど、一部修正したことが報告された。同ガイドラインの改訂版は、この日の委員からの意見も踏まえて最終的な修正を経て近く公表される見通し。
同会議は、いじめの重大事態の発生が増加傾向にあり、学校と教育委員会の連携不足による対応の遅れなど、さまざまな課題が生じていることを踏まえ、2017年に策定された「いじめの重大事態調査に関するガイドライン」の改訂に向けて議論を重ねてきた。改訂案では、重大事態調査への学校や関係者の対応をよりきめ細かく明確化し、発生を防ぐための「平時からの備え」を新たに設けたほか、調査組織に委員として専門家や第三者を加える場合の中立性・公平性を確保するための考え方を整理するなど、現行ガイドラインの約4倍の分量となり、7月12日から8月2日にかけてパブリックコメントが実施された。
会議では、文科省の担当者からパブリックコメントが894件寄せられたことが報告され、意見を踏まえて文言を修正した素案の内容が説明された。具体的には、重大調査を実施する目的として、「対象児童生徒の尊厳を保持するため」との文言が加えられたのをはじめ、いじめへの対処には福祉・医療等に関する相談・支援が必要な場合も考えられるとして、「平時から各地方公共団体の首長部局・医療機関等と連携を深め、関係機関等による支援に迅速につなげられるようにしておくことが望ましい」などの文言が追記された。
説明された新たな素案に対し、各委員はおおむね評価しつつも問題提起や要望も相次いだ。日弁連から臨時委員として出席した栗山博史弁護士は、いじめを行った行為者を非難できない場合も対象児童が心身の苦痛を感じればいじめになるという法律の定義に基づいて、いじめかどうか認定するというくだりについて、「報告書をまとめる段階で現場の裁量を考えないとがんじがらめになってしまうのではないか」と指摘し、新井座長と事務局で文言を最終的に詰めることになった。
また、清原慶子委員(杏林大学客員教授、前東京都三鷹市長)は「改訂したガイドラインは全国の教育委員会だけでなく、こども家庭庁と連携して、全国知事会などを通してこども部局の担当者に周知するとともに、国民にも広く周知してほしい」と要望した。
別の委員からも「相当のボリュームがあり、教員に周知するには多過ぎるのでダイジェスト版もあった方がいい」との提案があったことを踏まえ、同省担当者は「重大事態発生時のチェックリストやスライド資料を作って、趣旨がきちんと伝わるように周知に努めたい」と答えた。
同省は、この日の委員からの意見や要望を踏まえて最終的に文言を調整し、近くガイドライン改訂版が公表される見通し。