学校の教育活動には全て法的根拠がある。その最たるものが学習指導要領であろう。学習指導要領を基に教育課程が編成され、学習指導要領を基に編集された教科書を使って授業が進められる。学校は常に学習指導要領の実現を目指している。しかし、それが難解であればその趣旨は理解されにくく、求めるものが多過ぎれば実現されにくくなるという現実もある。
同じ轍を踏まないためにも、次期学習指導要領に向けて多様な立場の人々が積極的に発言し、国民的な議論へと発展させていきたい。特に、学びの主体である子どもたちが、何をどのように学びたいのかを理解し、それを実現していくことが重要である。
その意味でも、2022年度に実施された「義務教育に関する意識に係る調査」を拡大・継続し、実態把握に努めることも必要だ。また、常に教育課題を付加し続けてきたビルド&ビルドの発想をやめ、必要なことを整理して簡潔に示し、基準性を担保すべきである。
さらに、学校の裁量範囲を拡大することで自由度を高め、実効性のある学習指導要領にしていきたい。中教審も、改訂という発想ではなく、新たな学習指導要領をゼロベースで策定するつもりで議論を進めてもらいたい。
思考力を育むためには、その道具としての知識・技能が欠かせない。「コンテンツベース」か「コンピテンシーベース」といった二項対立ではなく、どちらも大切なのだ。今さら英国の哲学者・ホワイトヘッドの言葉を引くまでもないが、「あまりに多くのことを教えるなかれ。しかし、教えるべきことは徹底的に教えるべし」を実現すべきである。
思考力の育成が大命題となり、学校は徹底的に教えるということを避けてきてしまったことも否めない。国民として真に必要な知識・技能を明確にし、徹底して身に付けさせていくことも必要である。
一方で学習内容の系統性と同様、学び方の系統性を示すことも考えるべきだ。現行の学習指導要領では、授業改善の視点として「主体的・対話的で深い学び」が示された。当初は学校の創意工夫を妨げるものだという批判もあったが、全国学力・学習状況調査や学習指導要領実施状況調査から見えてくる課題は、全て指導方法、学び方に帰着する。学び方を明確にしていくことで二項対立から抜け出すことができるはずだ。
GIGAスクール構想で整備された1人1台端末の活用は、授業の在り方だけではなく、学校教育の在り方も変えてきた。しかし、学校間格差・自治体間格差は広がりつつある。さらに、首長の考え方や財政状況によって教育環境に格差が広がっている。
日本中どこでも質の高い教育が受けられるという義務教育の役割を果たす意味でも、学習指導要領で教育環境を規定することも考えたい。学習指導要領には議会をも動かす力があるのだ。
ここからは、次期学習指導要領に向けた具体的な提言をしていきたい。
①部活動に関する記述をなくす
部活動の地域移行を完遂するためにも、中学校学習指導要領から部活動の記述をなくす。地域移行までの道程は、移行措置で示せばよい。
②特別活動の総時数を示す
現行の学校教育法施行規則別表第1では、給食指導を除く学級活動の時間数のみが示されている。学校行事を含め、全ての特別活動の内容の総授業時数を上限として示すことで教育課程のスリム化が実現する。
③校長の裁量範囲を示す
地教委の強い指導により教育課程の画一化が進んでいる。各教科等の標準時数に幅を持たせ、校長の判断でカリキュラム・マネジメントが推進できるよう明記する。
④教育課題を整理する
いわゆる「〇〇教育」が教育課程を圧迫し、もはやカリマネというマジックワードでは解決しない状況である。真に必要な教育課題を整理して教科等に位置付け、学習指導要領に明記することが必要だ。
⑤総則と各教科等を関連させる
総則は、学校教育や授業の在り方、学び方を示す重要な役割を果たしているが、学校現場の関心はどうしても教科等に向きがちだ。総則の内容を項目番号などで整理し、各教科等の記述とリンクさせることで学び方を意識できるようシステム化を図る。
⑥認知特性に応じた指導を明記する
特別支援教育の考え方を拡大し、子どもたち一人一人の認知特性に応じた指導について解説することで、個別最適な学びの実現を図る。
⑦全ての子どもたちに学習指導要領を配布する
学習ガイドとして学習指導要領を子どもたちに配布し、自己調整学習に役立てる。