年々、暑さが厳しく、そして期間も長くなっている。学校生活の中でもさまざまな熱中症対策の重要性が叫ばれているが、近年、登下校時に日傘をさす子供の姿もよく見掛けるようになってきた。最近は晴雨兼用の子供用の日傘も登場し、「大人の女性が使うもの」というイメージも変わりつつある。「持ち歩ける日陰」である日傘を使うことはメリットも大きいが、日傘の利用を制限している学校もあるようだ。日傘から学校の熱中症対策を切り取ってみたい。
ランドセルメーカーのハシモトでは、今年4月から公式サイトなどで子供用の晴雨兼用日傘の販売を開始した。ランドセルを購入した保護者へのメール配信やSNSでの発信によって、種類によっては6月に一時的な在庫切れが生じるほどの反響があったという。ランドセル関連の商品は春ごろに需要が高まる傾向にあるが、日傘の場合は夏が近づくにつれて売れ行きが急増していった。
同社が販売する日傘は8月時点で8種類があり、柄の入ったものや無地のものがある。無地のものは50センチと55センチの2サイズが用意され、ふちには反射素材も付いている。
人気があるのは柄が入ったものだが、無地も用意したのは、日傘を許可していても無地のものに限定している学校があるなど、学校や地域ごとのニーズに対応できるようにしたためだ。
公式サイトから日傘を購入した保護者に、子供の性別を尋ねたところ、女子が77%、男子が23%だった。最近は徐々に日傘をさす男性も増えているものの、まだ日傘をさすのは女性のイメージが根強いが、子供の場合は一定数、男子でも使っていることが伺える。
日差しの強い日に日傘の使用を推奨する動きは、自治体にも広がっている。
埼玉県は2017年度から暑さ対策・熱中症対策として日傘の普及啓発に取り組んでおり、日差しが強くなる5~9月ごろには、SNSなどを通じて日傘の利用を呼び掛けたり、自治体が主催するイベントなどで日傘を貸し出したりしている。
18年度には東レとタッグを組み、同社の高機能素材「サマーシールド」を使った男女兼用の日傘を共同開発し、完売している。この男女兼用日傘では、県の男性職員などからのモニター調査の声が反映されたが、19年度には子供用日傘についてもモニターを募集。県の職員の子供である小学生10人にモニター調査を行い、多くの子供が日差しを遮ることができ、暑さが抑えられたなどの日傘の効果を実感していた。
一方で、保護者の声からは「子供はすぐ忘れる・なくす・壊すので、同じ物を複数購入する前提で親は考える。現在日傘を用いない生活で大きな支障がない以上、雨傘や帽子と同等かそれより安いこと・効果が高いことの証明が必要だ」といった指摘や、日傘をさすとどうしても片手がふさがってしまうこと、教育委員会や学校と連携して、男女に関係なく暑い日には日傘をさすことを推奨すべきだといった意見が寄せられた。
子供全員に日傘を配布した自治体の事例もある。
国内でも有数の「暑いまち」として知られる埼玉県熊谷市は、22年度に熱中症対策や新型コロナウイルスの感染症対策でソーシャルディスタンスを確保するための方策として、市内の小学生に子供用日傘を配布。昨年度からは新1年生に1本ずつ配布している。この日傘は、市のオリジナルで晴雨兼用。子供からは「日差しから身を守れたし、突然の雨にも役立った」といった声があり、登下校で日傘をさす子供は増えているという。
同様の事例では、福岡県筑後市もコロナ禍のソーシャルディスタンス確保のため、20年から2年間、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用して新1年生に日傘を配布していた。市教委によると、当時は市内でも田畑が多く日陰が少ない地域でより活用されていたという。昨年度以降は財源の問題から配布は取りやめているが、各学校で日傘を登下校時に使用することは、推奨しているそうだ。
日傘にはどれくらいの熱中症対策の効果があるのか。少し古いデータだが、環境省が11年に公表した試算結果によれば、クールビズで日傘を使用すると、上着を着用して歩行したときと比べて約2割の熱ストレスを軽減できるとされている。
「熱中症ゼロへ」プロジェクトを展開している日本気象協会では、熱や日差しから身を守るために、直射日光を避ける道具として、日傘や帽子を利用したり、なるべく日陰を選んで歩いたりすることを呼び掛けている。
同プロジェクトリーダーの泉澤里帆さんは「生活に取り入れやすいかがポイントになると思う。今は子供向けの日傘も多いので、もし利用できる環境であれば、学校への登下校中などに使っていくのは手だと思う。しかし、校則などで日傘の利用が制限されている学校もあると思うので、その場合は帽子をしっかり被るなど、自分ができる範囲で対策をしてほしい」と強調。「日傘をさすのは直射日光を避けることが目的になるので、学校によってルールはさまざまだと思うが、事前に備えるという意識を持った上で、熱中症対策を検討してほしい。どういうロジックで暑さ対策になるのかを、学校、保護者、子供自身で意識を持つようにするのが第一歩で、なぜこうしたものを持ってくるといいのか、どのように予防できるのかを考えることが大事だ」と話す。
記録的な猛暑が続いた今年の夏。同協会によれば、2学期が始まる9月以降も日本付近は暖かい空気に覆われやすいため、9月の気温は全国的に平年より高く、厳しい残暑が続く見込みで、中旬にかけて猛烈な暑さになる日もありそうだという。同協会は「登下校の際は、日陰を選んで歩いたり、小まめに水分をとったりして熱中症対策をしっかり行ってほしい。熱中症は時間がたってから症状が出る場合もあるので、学校や家に着いてからも油断しないようにしてほしい」と注意喚起する。
熱中症は、激しい運動時だけでなく、ほんのわずかな時間、日差しの下で過ごしただけでも、気分が悪くなるといったことが起こり得る。校則を見直して登下校中の日傘の利用を推奨したり、通学路で登下校の時間帯に日陰がどのくらいできるのかを把握したりするなど、日傘の利用や日陰の確保という視点から、登下校を含めた学校の熱中症対策をもう一度捉え直してはどうだろうか。