わが子が発熱しても、何も考えず休めるシステム構築を(庄子寛之)

わが子が発熱しても、何も考えず休めるシステム構築を(庄子寛之)
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育児との両立が難しい育休明けの教員からの相談

 さまざまな教員の方から「話を聞いてもらえませんでしょうか」と連絡をいただく。圧倒的に多いのは、働き方に悩んでいるママさん先生である。時には病休中の方や、転職を考えている教員などもいる。

 本を読んだり、講演を聞いたりして連絡をもらうケースもあるが、圧倒的に多いのは本紙に昨年書いた「育休明けの正規教員が数年間、講師になれる仕組みを」を読んで連絡をもらうケースだ。今回は、最近お話した数人のママさん先生の事例を基に、意見を述べたい。

体調不良のわが子のことより、今日の授業のこと

 朝起きると、未就学児のわが子が発熱していた。本当に苦しそうだ。その時、あなたは何を考えるだろうか。

 小学校の担任であれば、まずその日の授業の補教ではないだろうか。熱があると分かったのが午前7時だとすると、残された時間はあと1時間。学校に電話しても留守電だろうから、その日の予定を考えて、学年の先生たちにLINEで連絡する。ただでさえ教員が足りない昨今。今日中に熱が下がらなければ、数日休まないといけないかもしれない。そんなことも考えて自習できるものを考えていく。

 自習だけでは、子供も飽きてしまう。子供たちにできるテストはなかったか。取り組めるプリントはどこにあっただろうか。タブレット端末でできる学習はなかったか。

 この1時間、熱があるわが子を「放置」することになるが、とにかく学校に迷惑がないように最善を尽くす。それが終わってから、わが子の様子を見て病院に連れていく。

 薬をもらってほっとしたのも束の間、授業が終わった頃に学校に電話すると「○○さんのおうちから連絡があった」「○○さんと○○さんがけんかしたので、電話を入れておいてくれ」「明日休む場合は、明日の時間割を教えてくれ」などなど。わが子が寝ている間に電話をしたり、明日の時間割を考えたり……。

 もちろん、この時間は有給休暇中である。勤務時間ではない。そんな時間も学校のことを考えて家庭で仕事をしなくてはいけない。

 数日たって、わが子が元気になってから出勤すると、机の上にはプリントやテストの山。付箋もたくさん貼ってある。こんな電話があった。こんなトラブルがあった。○日までにこの書類を出してくれ。朝、学校に来るだけでめまいがする。

 当然、その日のうちに終わらない仕事の山。しかし病み上がりのわが子のためにも、遅くまで仕事をするわけにはいかない。となると、休日にテストやプリントを終わらせに学校に行く。こんなことを繰り返しているうちに、「なぜこんなに働いているのだろう」と考え始め、心身の調子を崩し、病休に入る……。

誰もが理由なく休んでよいはずなのに

 休むことは何も悪くないのに、周囲に謝り、気を遣い、迷惑を最小限にするために努力する……。これは、今回お話を聞かせていただいた病休中のママ先生の話である。私も20年近く学校現場にいたし、今も全国各地の学校現場を見ている。この現状は大げさではない。できる教員ほど、この負のスパイラルに入っていく。ただでさえ教員が足りない中、このような教員を失ってはいけない。お話を聞いて、そう強く思った。

 休むことは悪いことではない。わが子の体調不良ならなおさらである。休暇は誰にでも与えられている機会なのだから、理由なく休んでよいはずだ。しかし学校現場では違う。長期休みでないならば、理由がないと休めないのが現実だ。そんな職場はやはり「ブラック」と言われても仕方ないように思う。

こんな時代になっても、まだまだ男性の方が休みづらい文化

 今回お話を聞いたのは、全てママさん先生であった。しかも全員が「子供が大きくなるまでは復帰しない」と口をそろえる。教員という仕事にはとてもやりがいを感じている。学級経営も上手。ただ、育児と仕事のバランスが取れないという判断なのである。

 そのうち1人は時短勤務を使っていた。しかし、退勤時間になっても帰れないのがざらで、「この制度に意味はあるのか」と考えたという。周りの教員が打ち合わせしたい気持ちも分かるから強く言えなかった、とのことだが、ここは仕組みの問題ではないだろうか。6時間目が終わって、会議があればもう退勤時刻。打ち合わせの時間は残されていない。だからこそ授業時数を削減するか、1校当たりの教員を増やし、空き時間に会議ができるようにしなければ、学校は回らない。

 「パパさんと分担すればいいのでは」という声が上がるかもしれない。その通りだ。しかし、まだまだ男性の方が休みは取りにくい。教員不足が叫ばれている中、男性が育休をとろうとすると止める管理職ばかりだ。

 決して管理職を批判したいわけではない。私が管理職でも止めてしまうだろう。なぜなら、育休に入られてしまったら、後任を確保できない可能性の方が高い。まず見つからないだろう。教員が1人足りないだけで学校はみるみるうちに崩壊していく。何回もそんな学校を見てきた。管理職として止めるのは仕方ないことだろう。

 ただ、それをよいことだとは全く思っていない。産休や育休に入れない職場環境は、絶対に改善しないといけない。

世の中の全ての先生が、笑顔で働きやすい学校現場を!

 昨年オピニオンで書いた記事の内容を、改めて言わせていただく。育休明けの教員は、1年間担任をしないで準備できるシステムを作るべきだ。非常勤講師や、スクール・サポート・スタッフ(教員業務支援員)になるという選択肢が必要だ。今、現場では非常勤の教員が多く入っており、教員免許をもっていないケースも多い。もし、その仕事を担任経験のある教員が行えたら、学校経営は飛躍的に楽になるだろう。

 現状では、スクール・サポート・スタッフが授業を行うこともできないし、学校のことが分かっていないのにもかかわらず、教頭などの補佐になっているケースもよく聞く。ここを育休明けの教員が担えれば、担任がやってほしいことを理解し、行動することができるだろう。教室で落ち着かない子の対応もできるだろうし、担任が出張や休暇でいないクラスに一時的に入ることだってできるはずだ。

 教員不足の話になると、つい新規採用倍率に注目しがちだが、中途退職を減らす取り組みにもっともっと力を入れるべきだと思う。「退職しているお前が何を言っているのだ」と言われるかもしれないが、本当に強く強く思っている。教員が辛くて辞める教員もいれば、教育をよりよくしたいけれど、一人の教員として限界を感じて辞める教員も多い。

 毎週いろいろなところで授業をさせていただいている。子供たちと行う授業はとても楽しいものである。多くの教員がそこにやりがいを感じている。しかし、それ以上の大変なことが多過ぎる。仕組みを変えることを通して、優秀な教員の人材、特に育休明けのママさんの復帰には力を入れるべきだと考える。

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