私は教師。大好きで大切な仕事。その原点は、1年目にあります。
4月。一人の児童の言動に困っていました。始業式、自己紹介でにらみながら名前だけを言ったAさん。学級活動を妨害。やる気のない授業態度。けんかして2階から雨どいをつたって下りようとしたこともありました。先輩のT先生に相談すると、少し考えてひと言、「心を抱き締めてやれ」。
それから、私はAさんの態度に動じないように努力しました。一緒に遊び、学習のつまずきに寄り添い、声を掛け続けました。いつのまにかAさんは素直な笑顔を見せるようになっていました。
気になる子どもの言動は、ヘルプサインであることに気付かせ、真心で接することの大切さを教えてくださったT先生。手のかかる子に出会うたび、この言葉を思い出し、子どもの心を抱き締めようと努力しています。
夏、指導員の先生に理科の授業を見ていただくことになり、屋外で水の流れの実験をしました。授業が終わりほっとしていると、先輩から「M先生が助けてくれたことに気付いているか」と声を掛けられました。「?」「昨日遅くまで、岩石園の草を刈ってくれていたよ」私は授業を進めることに精いっぱいで、草がぼうぼうだったことも、きれいになっていたことにも気付いていませんでした。すぐにお礼を言いに行くと、M先生は「手助けしたかっただけ。次頑張っている人へ返してあげて。ぼくも先輩に助けてもらってきたから」恥ずかしくて嬉しくて、涙がこぼれました。
遅くなると家まで送ってくださった先輩も、悩むと飲みに連れて行ってくださった先輩も、「次の人に返してあげて」とおっしゃいました。先輩方のように私も誰かを助ける人になりたい、そう思って38年。今も周りに助けられることばかりですが、少しでも恩が返せると口にしています。「お礼の気持ちは次の人に返してね」。
今も心に残っている一番の失敗は、冬のお楽しみ会。当日Sくんが欠席。「出し物のグループから外された」とのこと。同じグループの子に尋ねると、「ふざけてやらないから、出ていけと言ってやった」そう笑いながら答えました。Sくんは、仲間外れになりがちな子でした。気付かなかった自分も、友達の悲しみを思いやれずに笑う子どものことも許せず、お楽しみ会を中止にしました。その日から、私の対応に不満を感じた子どもたちと、時々ぶつかるようになりました。3学期になっても溝は埋められず、「自分は教師失格だ。辞めよう」と決心しました。
春。そんな気持ちを翻したのは、言い合いを繰り返した子どもたちでした。「迷惑かけてごめんなさい。Sくんがうらやましかっただけ。先生はいつも真剣に向き合ってくれた。これからも頑張って」。Sくんを守りたい気持ちが先走り、彼らの心に寄り添えなかった私を許してくれました。この言葉のおかげで、今も教師を続けています。
周りに支えられ、必死に乗り切った1年目。失敗ばかりでしたが、1年を終えたとき「教師を一生続けていこう」と決心したことをよく覚えています。その後、行き詰まったことは何度もありましたが、先輩や子どもから受け取った大切な教えを振り返り、乗り越えてきました。「教師になってよかった」とゴールが近づいた今も、自信をもって言える自分に幸せを感じています。
教師は、未来を創る子どもを育む夢ある仕事です。責任は重く大変なこともありますが、日々出会う笑顔や感動が、それに勝ると信じています。
(川出真由美・名古屋市立大宝小学校長)