本連載では欧米諸国での教員不足に関する状況を、何度も報告してきた。台湾も同様の問題に直面している。台湾では教員不足と成績重視の教育が、深刻な問題を引き起こしている。
まず教員不足の問題だが、『Taiwan News』は2023年11月12日に「台湾は認定教師の加速度的な減少に直面している」と題する記事を掲載し、大学で教職コースを履修する学生が急速に減っている現状を報告している。同記事は「さまざまなキャリアの選択肢を検討している学生にとって、教職はますます魅力的でなくなっている」と指摘している。大学の「教員資格取得コース」はほぼ10年間、定員を割り込む状況が続いている。13年から15年までは充足率は97%程度で推移していたが、16年には88%と10ポイントも低下している。その後も充足率が93%を越えた年はない。21年の充足率は84%にとどまっている。
全国教育組合連合会の林会長は「台湾の教育関連プログラムの動向は『崖っぷち』に直面しており、これは国家的危機である。現在、教師はもはやかつてのように尊敬される職業と見なされていない。デジタル時代では、子どもが教師を軽蔑したり、中傷したりする動画がオンラインで拡散されている。大学は入学者の増加やカリキュラムの多様化に努めているにも関わらず、教員志望者の数は減少し続けている。専門分野で人材を確保することが難しくなっている」と、現状の厳しさを嘆いている。
同記事は「低給与、法改正で退職金や年金が引き下げられ、親や同僚からの圧力の高まりなどの問題で、意欲的な若手教師がゆっくりであるが、着実に減少している」と、背景にある要因を指摘している。さらに「教員養成コースを受講する学生が増えなければ、教育省は認定基準の緩和を余儀なくされる可能性がある。あるいは学校長に欠員を埋めるために『非認定教師』を採用する裁量権を拡大する必要がある」と対策の必要性を説いている。
だが「非認定教師」あるいは「代用教員(substitute teacher)」の採用もままならないのが現状である(日本では死語であるが、本記事では「代用教員」という言葉を使う)。『台北時報』は8月25日に「台湾では1000人以上の代用教員が不足している」という記事を、同8月30日には「代用教員の給料が安過ぎる」と題する記事を掲載している。
鄭英耀教育大臣は、新学年度は小中高校の代用教員1000人以上が全国的に不足していると語っている。8月25日の同記事によると、「代用教員の募集はほぼ全ての行政区で埋まっておらず、台北では129人、台中は92人、高雄では76人不足している。一部の学校では、退職した教師に連絡して臨時に教えるように依頼したり、校長が教師の代わりを務めたりしている」と説明している。
8月30日の記事は、代用教員の不足は「低賃金」が大きな理由であると指摘している。高校の代用教員の報酬は50分のクラスで約550台湾ドル(1台湾ドル=4.5円で換算すると、約2500円)から620台湾ドル(約2800円)だ。1クラスの生徒は約20人から29人である。授業の準備、宿題や試験の採点は報酬の対象にはならない。試験期間中は無給の採点時間が必要である。同記事は「高校の代用教員よりもコンビニで働いた方が収入は多い」と指摘している。
台湾の教育問題は教員不足だけではない。『天下雑誌』は23年11月7日に「なぜ台湾の子どもたちは疲れ果て、失敗を恐れるのか」と題する記事を掲載している。「台湾の児童生徒は不安を抱え、疲れ切っている。過去20年間に小中学生の数は38%減少し、教員1人当たりの生徒数は16人から10人に減少した。それでも児童生徒は学校で幸せに授業を受けている訳ではない」と状況を説明している。
授業の密度が上がった分、子どもの負担も増えている。児童福祉連盟財団が今年行った調査では、学校からの圧力に耐えられず自殺や自傷行為を考える子どもの割合が、前年の21%から28%に増加したことが分かった。同記事は「子どもは絶え間なく続く試験に追われ、深夜まで勉強し、十分な睡眠はなく、それでも親の期待する成績が取れない。子どもの3分の1は学習の目的がなく、自分の将来に対する明確なイメージも持てないでいる」と、児童生徒の置かれている状況を説明している。
台湾の8年生の数学と科学の成績は世界のトップランクだ。これは学校で数学と科学の詰め込み教育が行われている結果である。しかし、「こうした目もくらむような学業成績の背後には、過重学習を強いられる多くの生徒が存在している。さらに成績優秀者と出遅れた生徒の間の格差は拡大している」と、深刻な問題が存在することを指摘している。
さらに同記事は「最も顕著な特徴は、台湾の生徒は失敗を恐れていることだ。数学や科学が好きではなく、こうした科目を重要とは考えてはいない」と、成績重視の教育の在り方の問題を指摘している。 国家教育研究所の林崇熙元所長は「全ての試験が標準的な回答を要求している。教育は生徒が人生を生き抜くための力を与え、生存を脅かすようなさまざまなリスクに対応できる能力を養成するために向けられるべきだ」と、現在の成績重視の教育に疑問を呈している。