小学校からAEDで救命教育を 遺族と財団が文科相に提言

小学校からAEDで救命教育を 遺族と財団が文科相に提言
遺族の桐田さん(左から2人目)とともに日本AED財団は文科相に提言書を提出=撮影:藤井孝良
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 心停止を起こした人に電気ショックを与え蘇生を図る自動体外式除細動器(AED)が一般の人も使用できるようになってから、2024年で20年がたつ。公益財団法人『日本AED財団』の桐淵博理事らは9月10日、小学校からの救命救急の普及を求める提言書を盛山正仁文科相に手渡し、文部科学省で記者会見を開いた。会見には、11年にさいたま市の小学校で、駅伝の練習中に心停止により亡くなった桐田明日香さんの母親・桐田寿子さんも同席。寿子さんは当時、校内に備えられていたAEDが使用されなかった経緯を踏まえ、「明日香の事故は決して特殊な出来事ではない。どこでも起こりえる」と話し、学校現場で成長過程に応じた救命教育の取り組みが行われるよう求めた。

 同財団が提言で挙げた目標は2点。①小学校から全ての子どもたちが実技を伴う救命教育を受け、高校卒業時に、確実な心肺蘇生・AEDに関する知識と技能を習得することのできる教育体系の構築②人材育成、AED等の資器材・危機管理マニュアル・保健安全計画の整備等を通じた学校での突然死を防ぐ安全な環境の整備――という内容だ。

 日本では毎年8万人が突然の心停止で命を落としている。同財団の専務理事で京都大学大学院の石見拓教授によれば、「学校での突然死の7割以上が心臓の異常により引き起こされたもの。大まかにいうと年間30人程度の心停止が起きていて、そのうち3分の2は蘇生でき、3分の1に当たる10人程度が亡くなっている」という。中には桐田明日香さんのように、学校内にAEDが設置されていたにもかかわらず、活用されずに命を落とした子どももいる。

 こうした状況を受け、17年に中学校で、18年には高校で学習指導要領に「心肺蘇生法などの応急手当てを適切に行うこと」としてAEDの実習と救命教育が盛り込まれたが、小学校の指導要領にはまだ記載がない。同財団の桐淵理事は「学習指導要領に記載がない現状では、AEDや救命教育は『発展課題』の扱いで、必修ではない。全ての児童が学べる環境になっていない」と指摘する。

 一方、さいたま市では市教委が中心となり、明日香さんの事故の反省を生かした教職員向け対応マニュアル『ASUKAモデル』を作成。AEDを使用した救命教育についても教育課程に正式に位置付けた。また、文科省の調査では、18年に全国の小学校の32%でAEDを含む応急手当を実施していた。

 「『幼稚園』という幼児雑誌の付録に、紙でできたAEDの工作の付録がつくほどAEDに対する社会の認知は広がってきた。救命救急を学ぶ下地はできている」(桐淵理事)

 寿子さんは「AEDは飾るものではなく使うもの。小学生であっても、誰かが倒れた現場に居合わせることはある。救える誰かの命を救うことは、その家族や周囲にいる人の心も救うと知ってほしい」と語り、学校現場でのAED使用と救命教育のさらなる普及を求めた。

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