東京大学の藤井輝夫総長は9月10日、記者会見し、来年春に入学する学部生から授業料を2割値上げして約64万円にする改定案を発表した。同時に学生支援を拡充して授業料全額免除の世帯収入を現行の400万円以下から600万円以下に拡大する。役員会を経て今月末にも決定する見込みで、授業料値上げは2005年度以来、20年ぶりとなる。藤井総長は会見で、「グローバルな競争が激しい中、学生の教育学修環境の改善は待ったなしだ」と強調し、理解を求めた。一方、学生有志らでつくる「東大学費値上げ反対緊急アクション」は、「議論が十分とは言えない状況で学費値上げが拙速に決定されようとしていることに強い懸念を表明する」との抗議声明を公表した。
授業料改定案によると、来年入学する学部生の授業料は現行の53万5800円から2割値上げして64万2960円とする。修士・専門職学位課程も同額に値上げするが、現在の在学生が大学院を目指して修士課程を修了するまでは現行の授業料で学べるよう、29年度の入学者から適用する。博士課程の授業料は、卓越した研究者の養成は東大の使命であり、学生・教員との意見交換の中でも配慮を求める要望が強かったとして、52万800円のまま据え置く。
学生支援の拡充については、学士課程については来年4月の入学者から、全額授業料免除の対象を、現行の世帯収入400万円以下から600万円以下に拡大する。修士・専門職学位課程についても、29年4月の入学者から世帯収入600万円以下を対象とする。さらに世帯収入600万円超~900万円の学生についても、遠方の出身など個別の状況を考慮して一部免除を行うとしている。
文部科学省の省令では、国立大学の授業料は標準額の最大2割まで引き上げられるとしており、標準額と同額だった東京大学の授業料が20年ぶりに引き上げられる見通しとなった。
藤井総長は会見で、「財源の強化・多様化を通じて学びの環境を整備してきたが、グローバルな競争が激しさを増す中、学生の教育学修環境の改善は待ったなしで、迅速につくりあげなければならないとの思いで、法令に規定された範囲で改定しようと考えた」と強調した。
授業料改定による増収額は年間13億5000万円と見込まれ、学生自身が学びに関する情報を管理する学修支援システム等の機能強化など学修情報の可視化・学修環境の整備をはじめ、図書館機能の強化、TA(ティーチング・アシスタント)の処遇改善、グローバル体験等の強化・拡充などに充てることにしている。
また、学生を対象に行ったアンケート調査結果や、学生から学費値上げへの反対運動が起きたことも踏まえて、経済的相談の支援窓口強化を早急に進めるとともに、「当初、学生とのコミュニケーションを持てなかったことには反省点もあり、学生に関わりのあることについて一緒に考える仕組みをつくっていきたい」と述べ、学生と対話する仕組みづくりを進める考えを示した。
一方、学生有志などでつくる「東大学費値上げ反対緊急アクション」は11日、今回の授業料改定案などに対する抗議声明を発表した。
声明文では、「議論が十分とは言えない状況で学費値上げが拙速に決定されようとしていることに強い懸念を表明する」として、具体的には、▽値上げ案は国際条約で義務付けられている「無償教育の漸進的導入」に逆行している▽減免措置が十分な解決策ではない▽団体交渉を拒否するなど、学内の合意形成プロセスが無視されている――などと問題点を指摘している。その上で、「学費値上げの妥当性や決定プロセスに関する根幹部分に大きな問題点が存在することは明白だ」として、大学執行部に対してスケジュールを根本から見直すとともに、改めて学生との交渉を行うよう求めている。