来年度予算の概算要求で文科省は「小学校における教科担任制の拡充」として2160人の定数改善を要求した。内訳は、中学年の教科担任制の推進に1750人、新規採用教員の持ち授業時数軽減のための教科担任制の推進に410人となっている。8月の中教審答申を受けて公表された「教師を取り巻く環境整備総合推進パッケージ」とも連動しており、業務負担と長時間勤務を減らすための具体策の一つとしてアピールしている。
かつて勤務した小学校では、音楽、図工の専科教員に加え、英語専科が配置されていた。担任は週5時間程度の持ち時数削減が図られ、大変有効であった。しかし、高学年と同じ年間授業時数の4年生は英語専科の配置ができず、中学年の担任の方が、持ち時数が多いという逆転現象が起きていた。その意味では、中学年への教科担任制の拡充は大きな意味がある。しかし、1750人の要求がそのまま通ったとしても、全国には1万8000校を超える小学校があることを考えれば、その恩恵を享受できる学校は少ないのではないか。
小学校の教科担任制が拡大することで、新規採用教員の成長の場が失われるのではないかという声がある。小学校の教員は基本的に全科を担当する。しかし、低学年を担任しなければ生活科を教える機会はない。専科教員が配置されていれば、その教科を指導することもない。昨今の水泳指導のアウトソーシングについても、教師の指導力を低下させるという指摘もあるが、果たしてそうだろうか。
質の高い指導を目の当たりにできると考えれば、新規採用教員の学ぶ場となる。担任する子どもたちが、教科担任やその道のプロの指導をどのように受けているのか、子どもたちの反応はどう生かされているのか、児童理解や指導法を学ぶことができる。さらに、T・Tとして参画すれば、実践的に学ぶこともできる。この仕組みを初任者研修に組み込めば、教師の学びと働き方改革を両立することができるのではないか。
担任の授業は一回勝負、やり直しがきかない。その点、教科担任制は一つの指導案で担当学級分の授業ができ、そのたびに小さな改善を繰り返すことができる。教材研究にも十分に時間をかけることができ、このことが学校における働き方改革につながる。
そんな教科担任制推進の条件は、常に授業改善できる教員、専門性の高い指導ができる教員の確保である。小学校の教員の専門性とは、児童理解に基づいた指導、子どもたち一人一人の特性に応じた指導ができることである。さらに、担当する教科の系統的かつ専門的な理解も求められる。また、各教科等の内容的関連も理解していなければカリキュラム・マネジメントは実現しない。これは、中学校免許で小学校の教科担任制を行う場合も同様である。
教員には常に授業力を磨き、専門性を高めていくことが求められる。学校における働き方改革の真の目的は、その時間を確保することにある。小学校における教科担任制の拡充は、学び続ける教師の重要性を再認識させることになるだろう。しかし、教員が成長するまで子どもたちに待たせておくわけにはいかない。子どもたちには、よりよい教育を受ける権利があるのだ。
小学校の教員の中にも専門とする教科を持ち、研究団体などで専門性を高めている教員がいる。その教科の専門性を有し、指導力の高い教員が教科担任を担うべきである。そのことにより、子どもたちだけでなく他の教員の学びにもつながり、学校力を高めていくことができるはずだ。
チーム学校とは、「みんなで一丸になって」という精神論ではない。教職員や学校内の多様な人材が、それぞれの専門性を生かして能力を発揮し、子どもたちに必要な資質・能力を確実に身に付けさせることができる組織である。「担任する」ことは、自分の学級に責任を持つことである。しかし、全ての責任を一人で負うには限界がある。複数担任制を取り入れている自治体も増えてきたが、より多くの教員が指導に当たることで、その効果を最大限にしていくことを目指していきたい。
全国学力・学習状況調査の児童生徒質問調査に「困りごとや不安がある時に、先生や学校にいる大人にいつでも相談できますか」という設問がある。今年度の肯定的回答は、小学校で67.1%、中学校は67.4%だった。この数字は、チーム学校の機能の成果を物語っている。教科担任制が進むことで、この数字が上がっていくことを期待したい。