【災害からの復興を探究する】 地域の未来を創造する

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 震災から約10カ月、輪島高校では今、街づくりのプロジェクトに特化した総合的な探究の時間「WAJI活 街プロジェクト」が始動している。地域の復興に自分たちの思いを込める機会になる一方で、被災者でもある生徒たちにとっては、心の傷をえぐられるような一面もあるように思える。実際のところはどうなのか。インタビューの最終回では、復興に向けて探究的に取り組む生徒たちの様子を聞いた。(全3回、インタビューは主に8月6日に行ったものです)

クラファンで「復興花火大会」を実現

――震災で中断せざるを得なかった総合的な探究の時間「WAJI活」は現在、どうなっているのでしょうか。

 平野敏校長の提案で、2年生を中心に街づくりに特化したプロジェクト「街プロ」に取り組むことにしました。「WAJI活特別版」といった感じでしょうか。人がいなくなり、建物も崩壊してしまったここ輪島を、これから何百年と人が暮らす街にするため、ゼロから創造していく一つのチャンスだと前向きに捉え、プロジェクトを計画しました。

 今年度は生徒たちが積極的に市外に出て、いろいろな街を見学して街づくりのヒントを吸収しています。東北ツアーを企画しているグループは東日本大震災から復興を遂げた街を訪問し、高校生と交流したり東北地方の朝市を見学したりする予定です。

 夏休みには、被災した生徒の心の復興を支援する「OECD能登スクールプロジェクト」に、本校の生徒も参加しました。10月23・24日に熊本市で開かれる「『世界津波の日』高校生サミット」に参加予定の生徒もいます。

 これらのプロジェクトはさまざまな団体や行政の支援を受けて展開していますが、生徒が自らクラウドファンディングで資金を集めて成功させたプロジェクトもあります。9人の生徒による「輪島復興花火プロジェクト」で、輪島のお祭り「輪島大祭」のフィナーレで花火を打ち上げる企画です。約190万円の資金が集まり、地元の花火職人さんの協力も得て、8月23日の夜に15分間、約600発の打ち上げを成功させました。当初は、費用がかかることや大きな音が被災者に不安を与えるのではないかという否定的な意見もありましたが、生徒たちは諦めずによく頑張ったと思います。

支援されるのを待つのではなく、花火大会の資金集めに動き出した「花火班」=寺田教諭提供
支援されるのを待つのではなく、花火大会の資金集めに動き出した「花火班」=寺田教諭提供

――活発ですね。1年生が探究スキルを身に付ける、ゼミ形式の「不自由研究」はどうですか。

 以前と同じように教員がテーマや課題を設定して、生徒が選ぶ形で取り組んでいます。探究の一連の流れを経験する場なので、先生たちの興味・関心のあるテーマで実施しています。

 1年生担任の私は、震災前から関心を持っていた輪島朝市商店街をテーマにしています。今、2年生に商店街を探究している「商店街班」があるので、1年生の「不自由研究」の活動とつなげていこうと考えています。

 生徒から出てきた課題としては、商店街のシンボルであるオレンジ色のテントの良さを生かし、お客さんが利用しやすい店構えを両立させるというのがあります。テントの軒の高さが低いので、改善する方法はないかと他の朝市を調査中です。2年生の「商店街班」は校長先生に掛け合って予算を獲得し、東京の商店街を調査しに行きました。

商店街研究のために東京を訪れたグループも=寺田教諭提供
商店街研究のために東京を訪れたグループも=寺田教諭提供

 中には「朝市で食べ歩きができるようになったらいい」と考えている生徒もいます。以前から、朝市で魚を食べることはできたのですが、それも本格的な魚料理で、「それが観光客にとっては負担に感じるかもしれない」と生徒は言います。食べ歩きが気軽にできておいしさが分かれば、売り上げも伸びるのではないかと考え、他の商店街を調べています。

 長らく変えられなかった伝統を変えるなら今がチャンスと、生徒たちは思いのほかしっかりと課題意識を持って取り組んでいます。今の1年生はそれぞれが定めた課題を夏休み中に深め、11月に簡単な発表をした後、2年生とともに「街プロ」の活動に参加する予定です。

現実と折り合いながら達成感を得るには

野球部を中心とした「グラウンド整備班」は、部活動再開を目標に奮闘中だ=寺田教諭提供
野球部を中心とした「グラウンド整備班」は、部活動再開を目標に奮闘中だ=寺田教諭提供

――今後の「街プロ」「WAJI活」の展望、あるいは乗り越えなければならない課題はありますか。

 生徒は地域の役に立ちたいと思っているし、私たちもこの活動を経験した子どもたちが将来、地域に関わってくれたら最高だと思っています。でも、明るいニュースばかりではないのが現実です。海女漁の再開の見通しが立たなかったり、商店の組合が自己破産して共通商品券が利用できなくなったりと、地域経済は厳しい状況です。震災前は企業も元気で、そのおかげで「WAJI活」でやりたいことが実現できたのだなと、今になって痛感しています。

 でも、今年の3月に卒業していった生徒たちは、探究を経験して「将来、輪島を良くするために戻ってきたい」と言っていました。「WAJI活」で外へ出て、積極的に活動したことは良い経験になったと思います。現実は厳しくても、生徒たちが外に出て、本物を見て、経験したことが将来、輪島の未来につながればと思っています。生徒たちの達成感や自己有用感と結び付く活動にすることが、今後の大きな課題だと思います。

「ハーバリウム班」は、小学生を招いてインテリアフラワーを一緒に作った=寺田教諭提供
「ハーバリウム班」は、小学生を招いてインテリアフラワーを一緒に作った=寺田教諭提供

輪島を変えられる人は、世界を変えられる

――「WAJI活」を通して地域と生徒たちをつないできた寺田知絵教諭ですが、教員を目指したきっかけはどんなことだったのでしょうか。

 一つは能登が好きだということですね。大学に進学するときは「こんな田舎、絶対に帰らない」と決めていたのに、一歩外に出てみたことで、能登の良さに気付きました。

 もう一つは、情報化社会の今は、地方も都市も関係なく活躍できるからです。そして、地域性を言い訳にする教師にはなりたくないという思いもありました。

 仕事がうまくいかなかったときに「この場所だから駄目なんだ」と言っても何も解決しません。大学時代、このままだと「教員になったときにそんな言い訳をする日が来るかもしれない」と思い、自分の育った街に戻ろうと思いました。現任校は2校目ですが、結婚して家も建てたので、これからも能登を中心に勤務することになると思います。

――教師という職業について感じること、学校教育に対する課題意識について聞かせてください。

 最近よく、教師は無力だなと思います。生徒の将来に責任を負うことはできない、最終的に責任は生徒本人が負うことなのだ、ここ数年はそんなふうに感じるようになりました。教師は生徒の人生を代わってあげられません。だからこそ、最善の方法、最高のパフォーマンスで授業をして、生徒たちが自分の頭で考え、自分の道を歩んでいけるようにしていきたいと思っていいます。

 そのためには、教科書に載っていることをただ教えるだけではいけません。今、学んでいることが将来にどう役立つのかを伝えながら、生徒の可能性や視野を広げてあげる必要があると思います。教師が広い世界や未来を見ていることが大事ですし、そういう教師が増えていくことが大事なのだと、最近になって思うようになりました。

 未来を創造できる生徒を育てることが、私が常に目指していることです。数学でも社会でも探究でも何でもいい。ただ知識を吸収するだけでなく、それらを活用して新しい未来を創造できる生徒を送り出したい。その目標は昔からブレることなく、私の中にあります。震災を経て、その思いは一層強くなりました。輪島の未来を変えられる人は、きっと世界を変えられる。そう思っています。

 

【プロフィール】

寺田知絵(てらだ・ちえ) 石川県珠洲市出身。筑波大学を卒業後、石川県で地歴公民科の教員として採用される。2校目の輪島高校では探究「WAJI活」の担当として活躍中。昨年度は3年生の学年主任として、被災後も卒業アルバム制作に力を尽くすなど奮闘した。

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