「仕事のやりがいは?」中学生が大人のウェルビーイングに迫る

「仕事のやりがいは?」中学生が大人のウェルビーイングに迫る
高橋教育長に「1人1台端末導入は成功したのか?」など鋭い質問を投げかける生徒たち=撮影:松井聡美
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 どんな時に、その仕事の喜びを感じますか――。神奈川県鎌倉市立深沢中学校(北村一将校長、生徒472人)で、さまざまな職業のゲスト講師を招き、インタビューを通してその人の仕事のやりがいや人生の在り方に迫る特別授業が11月7日に行われた。1人の講師に対して、生徒が50分間のインタビューを実施。自分の関心のある職業や生き方をしている大人と本音で語り合うことで、生徒たちは「これからどう生きていくのか」のヒントを得たようだった。

ウェルビーイングをテーマにキャリアや職業を探究

 深沢中学校では、3年間を通じてシティズンシップ教育に取り組んでいる。1年生の時に他者理解、自己理解を学んできた2年生は、6月から「ウェルビーイング」をテーマに、キャリアや職業について学びを深め、インタビューの方法なども実践を交えて学んできた。

 同市教育委員会のコラボ事業として、同校のシティズンシップ教育をサポートしているNPO法人未来をつかむスタディーズの河内智之理事長は「どんな職業なのかということよりも、その職業は社会の中でどんな貢献をしていて、生きがいは何なのか、仮説を立てながら考え、さまざまな視点から職業を探究してきた」と、これまでの2年生の学びについて説明する。

 この日は、これまで学んできたことを生かし、さまざまな職業の大人にインタビューする「未来スタジアム」が行われた。この取り組みには、同市のふるさと納税を活用した自治体クラウドファンディング「鎌倉スクールコラボファンド」の資金が活用されている。

 難病を持つシンガーや、産業廃棄物問題に詳しい弁護士、起業家の顔を持つ理学療法士、地元アパレルメーカーの社会貢献事業推進者など、計19人の多彩なゲスト講師が集結。生徒は3~6人のグループになって、関心のある職業や生き方をしている人に50分間、じっくりとインタビューを行った。

大人の人生の在り方ややりがいに迫ったインタビュー

 アニメーター・イラストレーターのにじたろうさんには、絵を描くことが好きな生徒がさまざまな質問を投げ掛けた。「アイデアが行き詰まった時にはどうするのか」との質問に「ひたすら苦しみながら日々考え、ぽろっと出てくるものを日々積み上げていくしかない。それはどんなクリエーターでも同じだと思う」とにじたろうさんが答えると、「私と同じように悩んでいるんだ」と、安堵(あんど)と共感の気持ちを打ち明ける生徒もいた。

子どもたちにこれからの目標を語っていたにじたろうさん=撮影:松井聡美
子どもたちにこれからの目標を語っていたにじたろうさん=撮影:松井聡美

 にじたろうさんは「オリジナルのキャラクターを考えるにしても、まったくゼロから考えるということではない。必ず、過去に自分が見てきたインプットから、アイデアのヒントを得ているはず。だからこそ、いろんなものに興味を持って、たくさんのものを見てストックすることが、オリジナルの物を生み出すためにも必要ではないか」とアドバイスを送っていた。

 また、「アニメーターをやっていてよかったと感じる時や、やりがいは?」という質問には、「つい先日も子ども向けの映画祭で制作したコメディーのアニメを上映したが、観客がすごく笑ってくれた。ものすごく苦労して、時間をかけてつくるが、観客の笑っている姿や幸せそうな姿を見ることが一番のやりがいだ」と笑顔で答えた。

 鎌倉市の高橋洋平教育長には、「1人1台端末が導入されて5年たったが、成功していると思うか」と、生徒から鋭い質問が飛んだ。高橋教育長が以前、文部科学省に勤務していた時に1人1台端末の導入に関わっていたことを、事前に調べていたのだ。

 高橋教育長が「君たちはどう思う?」と問い掛けると、「辞書代わりに使ったりしている。勉強には使えると思う」「でも、遊びに使っている人もいる」と率直な意見が語られた。

 「1人1台端末が導入された最初は、コロナ禍で学びの保障をすることが重要だったが、そういう時期は終わり、どんどんICTを使っていくフェーズに入った。今後は『ICTを使ってどう学ぶか』になっていかなければならない。答えのないことを学ぶとき、学びを深めていくときに、ICTを活用していってほしいという願いがある」と高橋教育長が答えると、生徒たちも真剣な様子でうなずいていた。

 その後も、高橋教育長の学びへの思いを掘り下げた生徒たち。インタビューをした生徒は「とても深い話が聞けて、学びに対する意識が変わった。これまでテストだけをやっていたらいいと思っていたけれども、自分の人生に役に立つように学んでいきたい」と目を輝かせていた。

自分自身のウェルビーイングにどうつなげていくか

 授業終了後、ゲスト講師は「たくさんの質問を投げ掛けられたことで、自分はこうやって人生を決めてきたのだなと振り返れた」「子どもたちが夢を持った時に、それについて聞ける人が身近にいることはとっても貴重なこと。ぜひこの取り組みを続けてほしい」「生徒にとっても学びの機会になっていればうれしいが、私自身もこれからの取り組みのきっかけをもらった」などと振り返り、充実感をにじませた。

 また、「自分の言葉で知りたいことを聞く力に驚いた」「質問を受けて、また新たな質問を投げ掛けてきたことに感心した」と、生徒たちのインタビュー力を評価する声も多く上がっていた。

 2年生担任の𠮷岡遼平教諭は、「生徒たちはものすごく緊張していたが、失敗も含めてとても良い経験になったと思う。学校教育が変わっていく中、子どもたちが自分の決断の責任を持てるようになっていくことが必要だと思っている。中学生は卒業後の進路など、自分で決断する日が近い将来、必ずやってくる。今日の経験をどう生かしていくかが重要だ」と力を込めた。

 今後、2年生はこの日のインタビューの様子をドキュメンタリー動画にし、グループごとに発表する予定だ。また、学年の最後には「自分自身のウェルビーイング」について考えをまとめることになっている。

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