変わる授業の在り方、学校における働き方改革など、さまざまな課題に直面する中学校現場の視点で学習指導要領の改訂に向けた議論を注視する全日本中学校長会(全日中)の青海正会長(東京都大田区立志茂田中学校校長)は、生徒の主体性を尊重する授業改善では「高校入試の在り方も議論すべき」と提言し、授業時間短縮などについても実情に合わせて学校が柔軟に対応できる方向での実現を期待する。また、青海会長は、スポーツ庁と文化庁が設けた有識者会議「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」(部活動改革実行会議)の委員でもあり、「地域移行」から「地域展開」への改称案も上がる部活動改革については「中学校に期待される役割は大きく、簡単には切り離せない。学校によっていろいろな進め方があってよい」との見解を示している。
――次期学習指導要領の議論に向け、検討を望む点や気になるテーマはありますか。
現行の学習指導要領の中学校での施行は2021年度に始まり、今年が4年目。おおむね10年ごとに改訂というスパンであれば、まだ折り返していません。
具体的な例を挙げれば、「主体的、対話的で深い学び」というキーワードでは、生徒たちが考えて発表するなど、外化する(アウトプット)授業にしていくことが求められ、教員が教えるだけの授業、インプット中心の授業から切り替えなければなりません。ポイントを絞って教え、覚えさせることは、経験を積んできた教員にとって得意ですが、その方向だけではなく、授業改善が求められます。
しかし、これは高校入試も変わらないと。入試が知識を問う形のままだと、授業改善の方向とずれてしまいます。保護者も進学について中学校に期待していますし、教員にも生徒を高校に合格させたいという思いがあります。次期学習指導要領の議論では、そのあたりにも踏み込んでもらいたいと期待します。
また、個人的な考えですが、授業時間の短縮は学校の実態に合わせて柔軟にできるといいかなと思います。中学校の授業時間はおおむね50分ですが、45分、40分にできないかということです。これは今回の改訂議論に入ってくると思いますが。
授業内容は単元のくくりで考えるわけですから、「今日はこの部分をやって、40分で終わり、次の授業で続きをやればいい」ということです。授業時間が短くなったからといって、その時間に指導内容を完結させるという話ではありません。
今、多くの学校で標準授業時数は週29時数で35週、1015時数。毎日6時間の授業で、授業時間を50分から40分に10分減らすと、1日に60分減ります。これは6時間目の終わりが60分早くなるということです。そうすると、教員が使える時間は随分違います。
午前8時15分始業で、午後3時15分に6時間目が終わり、帰りの会や掃除をやって午後4時近くになります。終業時間は午後4時45分で、それまでの1時間くらいで、翌日の教材研究をやりますが、時間が足りません。中学校は部活動もあります。午後6時くらいまで部活動をやって、特に若い先生は翌日の授業の準備で当然のように残業、超過勤務となってしまいます。
1時間の前倒しでも時間が捻出されれば、少しは余裕ができます。学校によって事情も違うので一律にやることではなく、柔軟性を持たせてもらいたいと思います。
――中学校部活動の地域移行・地域展開も注目されています。青海会長は部活動改革実行会議の委員ですが、ワーキンググループ(WG)での議論について気になる点はありますか。
生徒たちや保護者の部活動への期待は大きく、学校を選ぶキーワードにもなります。この地域でも希望する部活動の有無で近隣学区の学校を選択することは、それほど難しくはありませんし、もともと学校選択制を導入している地域もあります。私立学校には部活動に力を入れ、それをアピールしている学校もあり、部活動の地域移行は公立離れにつながらないかという心配もあります。学校部活動の位置付けの見直しの要否などについては、次期学習指導要領での大事な視点だと思います。
スポーツ庁、文化庁は地域移行を進める方向でモデル事業、成功事例を紹介していますが、みな同じようにやれば成功するという話でもありません。規模の大きい学校もあれば小さい学校もあり、地方と都市部で環境も違い、部活動の実態は大きく違います。
私はハイブリッドというか、実態に合った形で地域移行、地域連携を進めていくべきだと思います。隣接校との連携でも、すぐに行ける学校もあれば、遠くてスクールバスを出さないと移動もできない学校もあります。どういう手段で隣の学校と連携するか、条件はさまざまです。
本校では、学校教員の指導による方法、区から配置の部活動指導員に学校に入ってもらっている方法、業者への民間委託による方法と3つのパターンが共存しています。
そもそも少子化が進み、一つの学校だけであらゆる部活動を維持するのは難しいという課題は全国共通で、実態に合わせた改革は必要です。また、部活動に関わりたいという教員もいます。逆にやらなくていいなら、やらないという教員がいた場合は、教員の望む働き方を考える必要があります。「うちの学校では、これはできるけど、これは難しい」という場合もあります。学校と地域が連携し、進め方を選択できるような形がよいのではないでしょうか。
――WGでは、部活動を学習指導要領でどう取り扱うかが注目され、「学校教育の一環として」という文言を入れるか入れないか、位置付けとして「公教育ではなく社会教育の方がよいのではないか」という議論もあります。学習指導要領の取り扱いという点では、どう考えますか。
部活動は教育課程外の学校教育活動ですが、学習指導要領では「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」という記述になっています。
議論はありますが、部活動を学校と切り離すことが可能かというと、そうではない気がします。だから、この記述は残していくべきだと思いますし、今のままでは地域クラブとどう連携していくのか分からないという現場の声があり、その部分は明確にする必要があります。
もともと、学校における働き方改革の視点から出発した議論ですが、生徒のスポーツ・文化活動に親しむ機会確保の話にもなり、今は生徒のみならず地域住民にとっての地域活性化、環境整備、スポーツ・文化芸術活動による「まちづくり」という話も出ています。必要性の議論にいろいろな要素が入っています。
結局、教員の負担軽減は学校と切り離さない限り無理で、部活動指導員を学校に入れるにしても、地域クラブに移行するにしても、間に担当教員を置かないと回らないのが現実です。「かえって自分でやった方が楽だ」という教員もいるでしょう。
課題を改善しながら進んでいくこともあるし、思ったようにならず、立ち止まることもあるかもしれません。突き進むだけではなく、冷静に振り返ることも必要です。
――このほか、重視したい個別のテーマはありますか。
GIGAスクール構想の推進、学校における働き方改革、部活動、特別支援教育の充実など課題はいろいろありますが、今、顕在化している課題は不登校です。
小中学校の不登校児童生徒は約34万人。不登校の生徒が学校外で行った活動を評価するのですが、これは難しい問題です。学校外での教育活動を校長が確認することになっていますが、不登校生徒が通うフリースクールにしても、教育支援センターにしても、学校と同じ教育活動をやっている所はほとんどありません。
また、教員免許を持たない人が教えている場合や学習の場ではなく、居場所となっている場合などもあります。それはそれで重要ですが、生徒の学力を評価するとなると難しいと思います。フリースクールの中には教員免許を持った人が在籍し、教科書を使っているという施設もあり、学校には来られないけれど、そこで一生懸命に勉強しているというのであれば、評価もできますが、そういう例は少ないのが実情です。
評価は、各教科の評価規準に従って行います。評価材料がない場合には、正確な評価ができないため、「評価不能」という判断となる場合もあります。学校外での活動を評価してあげたいのですが、きれい事では済まない部分もあります。
不登校が減らない原因は一人一人、実情が全く違うことです。さまざまな家庭環境の中で本人だけの問題ではない部分もあります。本校にも不登校生徒がいて、それぞれ事情が異なります。校内委員会で1人の生徒について議論すれば1時間でも話は尽きません。一律に同じ対応をしても無理なことは明らかです。そのためには、学校の役割として、専門の担当者が必要です。それぞれについて情報整理して対応する担当者がいないといけません。教員が授業をやりながら対応するのは相当な負担となります。
中学生は3年で卒業するので、不登校生徒数は累積して増えるわけではなく、毎年同じくらい減って、同じくらい増え、数字的に危機感が持てず、不登校の問題の解決は容易なことではありません。家庭状況や成育状況を把握した上で、さまざまな立場の人が、さまざまな視点から対応策を見いだしていく必要がありあます。
【プロフィール】
青海正(あおみ・ただし) 東京都出身。1987年度、東京都青ヶ島村立青ヶ島中学校教諭として教員生活をスタート。世田谷区立世田谷中学校副校長、東京都教育庁指導部教育計画担当課長などを経て2021年度から大田区立志茂田中学校校長。24年度から全日本中学校長会長。日本中学校体育連盟(中体連)会長、中教審専門委員(初等中等教育分科会に指名)も務める。専門は数学科。