将来的なデジタル教科書の制度上の課題などを検討してきた中教審初等中等教育分科会デジタル学習基盤特別委員会のワーキンググループ(WG)は1月21日、第5回会合を開き、これまでの議論を踏まえた今後のデジタル教科書の論点を協議した。現行の教科書の代替教材という扱いから、検定などの対象となる正式な「教科書」としてデジタル教科書も扱うかや、その場合に、教科書の一部が紙媒体またはデジタル媒体であるハイブリッドな形態の教科書も認めるべきかといった論点が示された。論点を踏まえ、WGの次回会合で中間まとめの検討を予定している。
デジタル教科書を巡っては、2019年4月に施行された改正学校教育法で、学習者用デジタル教科書が制度化され、紙の教科書と併用することが可能となった。文部科学省では「当面の間」、紙の教科書と併用する方針とし、小学5年生~中学3年生の英語など一部教科で導入を進めている。
この日の会合で示された「論点の整理」では、この「当面の間」について、次の学習指導要領に対応した教科書の使用が30年度から始まると仮定した場合の、必要な制度改正や教科書検定スケジュールの大まかな見通しを立てた。
その上で、これまでの4回の議論を踏まえた「当面の間」以降のデジタル教科書の論点として、まず①デジタル教科書を現行の「教科書代替教材」としての取り扱いから、検定・採択・無償給与などの対象となる「教科書」として取り扱うことを可能とすべきか否か。可能とする場合、教科書の一部が紙媒体またはデジタル媒体であるハイブリッドな形態の教科書も認めるべきか否か②①を認める場合、教科書と教材の線引きを改めて明確にすべきではないか。QRコード先のコンテンツは教科書相当の内容に限り教科書と認めてよいか――を挙げた。
ハイブリッドな形態の教科書としては、例えば、算数・数学の演習問題の問いは紙に掲載されているものの、その答えはデジタルにあるようなものや、中核的な概念の習得に関する内容、最低限の知識は紙に、それ以外の詳細な説明や知識はデジタルに分けるといったケースを想定。
②のQRコードについては、現在も教科書のページに載っているQRコードを読み取り、教科書の外にあるデジタルコンテンツを活用できるようにした工夫が増えているが、学校現場や教科書発行者の負担となっていることや、教科書の採択プロセスにQRコードからのコンテンツが影響を与えていることなどを課題に挙げた。
さらに、③紙とデジタルともに分量の精選と、創意工夫を促す新たな学びにふさわしい内容・構成が必要ではないか④デジタル教科書の使用は、全国一律の対応とすべきか、選択肢の拡大による採択権者の主体的対応にすべきか⑤デジタル教科書を認める対象となる学年や教科などについて、法令で規定すべきか、実態に応じて柔軟に運用できるようにすべきか――など、教科書の在り方や紙とデジタルの選択の方法にも踏み込んだ。
④や⑤について、細田眞由美委員(前さいたま市教育委員会教育長、兵庫教育大学客員教授)は「教室のDX化の自治体間格差、学校間格差、教師間格差は非常に大きい。実態に応じて柔軟に運用できるようにするのが現状に合っているのではないか」と指摘。
阿部千鶴委員(横浜市立荏田南小学校校長)は「対象となる教科や学年は柔軟に決められるようにしてほしい。(小学)1、2年生は紙の教科書が多くなると思うし、上の学年になればなるほどデジタルへの対応ができると思う。デジタルへの慣れが進んでいけば、デジタルを増やしていく年齢が下がっていくといったこともあるだろう」と話し、法令で規定すべきではないとした。
WGでは、次回会合で議論の内容を文章化した中間まとめの案を検討する。
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デジタル教科書 紙の教科書の内容をそのままデジタルに記録し、児童生徒が紙の教科書と同じように授業などで使えるものを学習者用デジタル教科書という。現行制度では、学習者用デジタル教科書に付随する動画やアニメーションなどのコンテンツは、厳密には学習者用デジタル教科書ではなく、補助教材と見なされる。