部活動改革で教育委員会の主体性を発揮する(遠藤洋路)

部活動改革で教育委員会の主体性を発揮する(遠藤洋路)
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「地域移行ありき」ではない議論

 熊本市では先般、「熊本市立中学校における新しい学校部活動の在り方について(素案)」を公表した。これは、2022年12月に「熊本市部活動改革検討委員会」を設置して以来、約2年間にわたり議論を重ねた結果をまとめたものである。

 この検討委員会は、初めから地域移行ありきの会議ではなく、熊本市にとって最善の方法をゼロベースで議論する場として設置した。学校関係者(教職員、保護者)、スポーツ・文化関係者、企業関係者、学識経験者、公募委員などに幅広く集まっていただいた。

 第1回会議の冒頭あいさつでは、私から「必ずしも、国の方針通りにやればいいということではない」「国の方針自体も揺らぐこともあれば、今後変わっていくこともあるので、それを絶対のものとして考えるのは、非常に危険である」「熊本の子どもたちにとって、先生方にとって、ベストな方法を見つけていければと思っている」旨を申し上げた。

 これを受けて、会議の委員からも「地域移行が前提の会議かと思っていたが、そうではなかった」「どのようにたった3年間で移行していくのかと思ったが、少しほっとした」といった発言があった。

 このように、地域移行ありきという前提に立たずに議論を始めたことで、その後の議論が大いに活性化したように思う。暗黙のうちに方針が決まっていて、それに沿った議論をしてもらうのと、私たちの自治体にとって何がベストかを自由に議論してもらうのとでは、議論の熱量が違うのである。

昭和にも行われた部活動の社会体育化

 検討委員会は、10回にわたる会合を開催したが、その中では、かつて運動部活動を社会体育に移行した経験も議論された。

 実は熊本県には、半世紀前に運動部活動を社会体育化した歴史がある。1970年、部活動中の事故を巡る裁判で顧問・校長・熊本市が敗訴したことを契機に、県が運動部活動を全面的に社会体育に移行する決定を下したのである。これによって、学校の運動部活動は勤務時間内に制限され、それ以外の活動については学校外の組織によって運営されることになった。

 その後、災害共済給付制度が大幅に改善されたことにより、社会体育であることのメリットが薄れてしまった。災害共済給付の対象となるには、学校管理下の活動である必要があるからである。こうして、78年に運動部活動は学校に戻された。

 検討委員会では、当時の状況を知る委員からの発言もあった。運動部活動が社会体育であった間も、地域の指導者の確保が難しく、多くの場合は教員が指導を担ったため、実質的には学校部活動と大差がないという状況があったようである。

地域の歴史や現状を踏まえた方針の策定

 検討委員会は、こうした歴史の検証や、スポーツ庁や文化庁との意見交換も交えながら、熊本市にとってベストな方法は何か活発に議論し、2024年3月に答申を提出した。この答申を基に、中学生とのワークショップや、関係団体との意見交換、市長部局との調整などを経て昨年11月に取りまとめたのが、今回の素案である。

 この素案のポイントは以下の通りである。

 ①地域連携による新しい学校部活動を構築すること

 ②全ての指導者に報酬を支払うこと

 ③教員が指導者となる場合、希望者のみが行うこと

 ④財源を公費、保護者負担、企業などの協賛で賄うこと

 また、同12月には株式会社MYプロデュースと、幅広い企業の協力を得るための体制づくりなどについての連携協定を締結した。今後、この協定に基づいて、指導者の確保や協力企業の確保(資金面、人材面)を進めていくことにしている。

自ら考え、主体的に行動する学校・教育委員会へ

 熊本市教育振興基本計画の基本理念は「豊かな人生とよりよい社会を創造するために、自ら考え主体的に行動できる人を育む」である。この理念を実現するためには、学校や教育委員会自身が、主体的に行動することが不可欠である。

 今回の熊本市の新しい学校部活動についての素案も、熊本市の関係者が自ら考え、主体的に行動した成果であると自負している。先日、神戸市が26年に部活動を終了し、平日も含めて全面的に地域移行するという報道があった(参考記事:平日・土日とも部活動を地域に移行 神戸市が26年秋から)。これもまさに、神戸市が国の方針に先んじて、自ら考え自ら行動した結果だろう。

 部活動改革は、少子化や学校統廃合の進み方、指導者となる人材の多寡、地域のクラブやスポーツ・文化施設の充実度、学校と地域の関係性など、各自治体が置かれた状況に応じた最適解を見つける作業である。その解はそれぞれ違うはずである。これからの部活動改革が、全国の教育委員会が自ら考え、主体的に行動する契機となることを強く期待したい。

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