熊本市教育長
コロナ禍以降、日本の出生数が急減している。特に、昨年は68万人と、従来の予測よりはるかに早く70万人を切り、社会に衝撃を与えた。このままの出生数が続けば、小学校の児童数も、6年後には2割減、10年後には3割減となる計算である。小規模校、複式学級が増加し、教員の必要数も徐々に減っていく。10年後の学校の姿を予測しつつ、それまでにどんな備えが必要か、考えてみたい。
今年4月末から、世界中の学校を対象に、グーグル上のレビュー(評価やクチコミの投稿)ができなくなった。学校に対してはポリシーに違反する投稿があまりにも多いため、新規の投稿は受け付けず、過去の投稿も削除される。学校や教職員に対する誹謗(ひぼう)中傷などの不法・不当行為は、日本だけでなく世界中で問題になっている。各国の動きを概観した上で、私たちができることを考えたい。
中教審特別部会で示された、次期学習指導要領における「裁量的な時間(仮称)」は、画期的といえる提案であり、実現を強く期待したい。児童生徒や教員の時間に余白をあえて取ることによって、それぞれの状況に応じた工夫や調整を可能とし、教育の質を高めることにつなげたい、という意図がうかがえる。画一的・硬直的と言われ続けてきたわが国の教育制度を変える契機となるはずだ。
民間企業のカスタマーサービスでは、電話の自動録音が広く導入されている。学校でも同様の自動録音機能を導入することによって、過度なクレームの抑制や通話記録の保存のために大きな効果が期待できる。熊本市教委では働き方改革の一環として、2024年度から全ての市立中学校と一部の市立幼稚園に、電話の自動録音機能を導入した。その結果生じた、さまざまなメリットをご紹介したい。
熊本市が昨年12月に公表した「熊本市立中学校における新しい学校部活動の在り方について(素案)」には、全ての指導者に報酬を支払う、教員は希望者のみが行うなどの方針が盛り込まれた。最善の方法をゼロベースで考えた成果だ。部活動改革は、各自治体が置かれた状況に応じた最適解を見つける作業である。全国の教育委員会が自ら考え、主体的に行動する契機となることを強く期待したい。
不登校は年々増加を続けている。文部科学省の調査結果では、2023年度は約34万人と発表された。しかし、この人数が発生件数ではなく認知件数であることは、あまり知られていない。「不登校」や「病気」の人数は、休んでいる子どもの背景を自治体や学校がどう認知するかに左右されている。不登校の数にばかり目を向けるのではなく、約50万人に達した長期欠席全体への関心と支援が必要である。
少子化の進展とともに、多くの地域で小規模校の増加が課題となっているが、小規模校のデメリットが語られる時、隠された大きな前提がある。それは、全て学校内で活動が行われるという前提だ。家庭や地域で学習する場合や、別の学校や海外とつないでオンラインで協働学習をする場合には、学校規模は必ずしもデメリットにならない。重要なのは、学校の「自前主義」からの脱却である。
かつて、学校に行かなければ近代的な学習ができない時代があった。今や学校は唯一の学びの場ではなくなったが、「学校に行くのが美徳」という価値観は根強い。長期欠席・不登校の子どもたちは、そのはざまで行き場をなくしている。学校を魅力的で有意義な、少しでも多くの子どもたちが通える場にすると同時に、学校外の包括的な支援を充実するという、両面からのアプローチが必要だ。
次期学習指導要領に向けた議論が本格化しつつある。学習指導要領はその名の通り、指導する側に向けた教育課程の基準だが、実施が想定される2030年代には「個別最適な学び、協働的な学び」が格段に進化しているはずで、学習者主体の枠組みへの見直しを図るべきだと考える。そこで「標準学習時数への転換」「学校内外の互換性の確保」「学習指導要領という名称の変更」の3つを提案したい。
熊本市では2023年、教員の年休の平均取得日数が17.2日となり、市教委の目標を達成した。大きな起爆剤となったのは、年休付与期間を「9月から8月まで」に変更する制度改正だ。道のりは平坦ではなく、市長部局の職員との均衡や人事交流への支障などの理由から、一度は断念する声も上がったが、内輪の論理で諦めるわけにはいかない。「やる」という強い意思を示すことが前進につながった。
教科書採択は厳密な手順によって行われているが、一つだけ抜けているものがある。それは教科書を使う当事者としての、子どもの意見の反映である。こども基本法の規定によれば、子どもは自己に直接関係する全ての事項に関して、意見を表明する機会が確保されなければならない。教科書採択にあたっても、当事者である子どもの意見を聴き、反映するための措置を講ずる必要があるといえる。
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