【市民の力で教育を楽しく変える】 「一夢一職種」を打破

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 教員と市民がフラットな立場で教育について自由に意見を交わす場「オモロー授業発表会」には、教職を目指そうとする学生や、若手教員の参加者もいる。教職の魅力を再確認する場としても役立ててほしいと、発起人の久本和明さんは話す。子どもの参加も大歓迎だという。そんな久本さんがいま、変えたいと着目するのは学校と社会の接続、特にキャリア教育だ。2023年には世界50カ国を巡り、その国の教育や文化、生き方や働き方と、人々の幸せとの関係をリサーチしてきたという。

個性を発揮している先生を記憶にとどめてほしい

教職志望の若者も発表した=撮影:市川さつき
教職志望の若者も発表した=撮影:市川さつき

――これから教員を目指す若者にメッセージはありますか。会場に教員を目指している大学生がいて、登壇者の実践発表は「自由でいいけれど、自分が教壇に立ったら、同じように実践できるか自信がない。子どもたちを自由にさせてあげられるか、難しそうだ」と語っていました。

 日本人は、周りを優しい気持ちで受け入れてあげないといけないから、ちゃんとしなければいけないと考える癖があります。周囲に飛び出す人がいたら、「だめだよ」と声を掛けます。だから、どうしても個性を発揮しにくいわけですが、やはり少しでも個性を発揮している先生を記憶にとどめておいてもらいたいです。

 教員になった後、周りからの同調圧力に悩むかもしれませんが、オモロー授業発表会を体験してもらうことで、本当に自分はどうしたかったのか、本当は自分がどんな教育をしたかったのか、なぜ先生になろうと思ったのか、どんなふうに子どもと向き合いたいのかを、問い直す原点としてもらえたらいいのではないかと思います。そして、また悩んだら、オモローでつながった先生と話せるといいですよね。

登壇者のプレゼンでは校内研修の実践例も報告された=撮影:市川さつき
登壇者のプレゼンでは校内研修の実践例も報告された=撮影:市川さつき

「一夢一職種」というバイアスを打破したい

――久本さんご自身が学校を経営する、または教育行政に直接関わりたいと考えたことはないのですか?

 自治体が約1700ある中で、私一人が何かしたとてそんなに意味はなくて、もっと大事なことは、やる人と広げる人を増やすことです。子どもが主体の教育を試みている校長も、教育長も市長も増えてきています。「やる人」は増えてきました。それを今、「広げる人」が少ないと思います。主体的・対話的に深く学んでいく、個別最適な学びや協働的な学びも進めてく、そしてウェルビーイングを大事にする、オモローは「こういう教育もあるよ」と、価値観を広げるリアルメディアでもあるのです。

 でも、日本にもないものがまだありそうだとすれば、それはもしかしたらやるかもしれません。それは新しいキャリア教育です。要は「職業選択の自由」を、どれだけ体現できる社会を作るかということです。日本では正規・非正規という雇用形態によって待遇が異なり、格差や差別があります。ヨーロッパでは同一労働同一賃金が基本で、早い段階からの職業教育や、大人になってからでも学びたいタイミングで学べる職業訓練校がある国が多く、職業を自由に変えられる社会です。

 日本も憲法で職業選択の自由は保障されていますが、「なりたいもの」に向かってやみくもに頑張り、そしてその仕事を一生続けるという「一夢一職種」のバイアスが強くかかっています。もちろんそうした職業選択も一つの方法ではあります。江戸時代のように進化がゆっくりとした時代なら、それもいいでしょう。

 ですが、今はグローバル化が進んで技術の発展もあります。時代の流れが変わり、足りない職業が出てきているのが現実です。10年後20年後の自分の職業が見通せない時代には、複数の仕事に就く。それが1つのときもあるし、10個のときもあるかもしれない。それらを10年続けることもあるし、1年だけのときもあるし、やらないときもあるかもしれません。

 そんな混然とした時代に、「受験」って意味あることなのだろうか、という疑問が湧いてきますよね。1カ所に固まって学んだり、仕事をしたりすることがなくなり、時間や空間が入り混じり、「ごちゃまぜ」な働き方の時代になるかもしれないのです。

 おととし、世界50カ国を回って興味深かったのはスイスの教育です。中学校は選択制の授業が多く、半分はインターンシップになっていました。多くはその後、職業教育・訓練の学校に進み、大学進学率は20%ほどだといいます。また、企業も、人材を職業訓練校や大学などに派遣して育成しています。若者も最新の技術を学べるし、30代、40代で仕事を変えたい場合もフレキシブルに学べるということでした。

 世界の教育をヒントに、多様な選択肢を自分の手で持った子どもたちが増えるような取り組みも、将来手掛けてみたいと思います。

中高生もオモローで発表してほしい

昨年11月17日に都内で開かれたオモロー授業発表会の登壇者=撮影:市川さつき
昨年11月17日に都内で開かれたオモロー授業発表会の登壇者=撮影:市川さつき

 先日のオモロー授業発表会では若者も登壇してプレゼンをしたと思うのですが、中高生も発表して、中高生同士で質問もしていく。そんなイベントの場も増やしていきたいです。

 「私は世界20カ国を旅して、親からお金をもらわなくても生活できました」と報告する若者、「新採用で公立学校に1年間勤務して、私はこういうクラスを作りました」と報告する若手教員がいたっていいですよね。さらに、多様なスキル、多様な価値観、多様な地域を知った人たちのプレゼンが増えていけば、子どもたちも、親も、先生も「受験」や「働く不安」から解放されて、多様な未来図が描けるようになるのではないでしょうか。

 一番伝えたいのは、先生たちに幸せになってほしいという願いです。このオモロー授業発表会では、私個人の教育への思いはあまり話さないようにしています。どちらかというと、先生が自由で、話している自分の意思が尊重される場であってほしいのです。一人一人の幸福感が高く、自分のやりたいことがやれている関係が生まれたら、先生も成長ができると思います。多様な情報はあるけれど、「今、自分は幸せなのか」をぜひ問い直してほしいですね。

 

【プロフィール】 

久本和明(ひさもと・かずあき) オモロー授業発表会発起人。1984年1月30日生まれ。兵庫県姫路市出身。2004年に㈱ワンピースを設立。映画『夢みる小学校』を見た久本氏が「教育の本丸は公立学校である」「地域の小中学校にも、必ず夢見る先生たちがいるはずだ」という想いのもと、オモロー授業発表会を23年に立ち上げた。全国35市町村で計70回(予定を含む)を超える開催をしており、毎回の参加者は100人から300人にわたり、大きなムーブメントとなっている。

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