ベテラン世代の退職に伴う大量採用期を経て教員組織の若返りが進む中、あなたの勤務校でも20代から30代の教員の割合が増えてきました。その結果、採用後10年未満の比較的経験の浅い教員も、主任として学校運営に参画しています。
若く意欲的な教員集団が改革意識を持って仕事に取り組むことは、学校に活力を与えますが、一方で経験不足によって保護者対応に不安を抱えたり、仕事と私生活の両立に悩みを抱えたりする教員も増えています。また、これまでの教育技術の伝承が世代交代に追い付かず、ミドルリーダーの育成をはじめ学校組織全体による人材育成が求められています。
このような中、あなたは教頭として、勤務校の教員集団の資質向上をどのように図りますか。あなたのこれまでの経験や実践を踏まえ、具体的に述べなさい。
本審査論文テーマは、経験が浅い教員が増加傾向にある勤務校で、校長のリーダーシップのもと、教頭が組織の核として教員集団の資質向上をどう図っていくかを問われている。
若手とベテランで二極化された教員集団が抱える課題に(1)教員個人の力量を高める(2)組織としての能力を向上させる(3)対話のある職員室を目指す――この3つの視点を持って教頭としてどう対処するかを書き述べていく。経験に基づく具体的な方策を示すことで説得力を高めたい。最後は教員集団の資質向上に向けての教頭としての決意を述べてまとめとしたい。次にその具体例を示す。
近年、若手教員の人数がベテラン教員の人数を上回るようになり、従来の学校組織において自然に行われてきた先輩教員から若手教員への教育技術などの伝承も、困難になっている。加えて本校では、少子化による学校規模縮小に伴い、教員の人数も年々減少し、校内でのOJTに苦しさが増している。そのような状況の中、私は教頭として、教員集団の資質向上を目指すため、人材育成を次の3つの視点を持って進める。
学ぶ必要性を感じなければ意欲的な研修参加はできない。「愛知県教員育成指標」では、キャリアを通してそれぞれの段階で求められる資質・能力が示されている。教員自身が明確な目標を持ち、計画的に力量向上を図ることが重要である。教頭として、育成指標を基準に研修履歴を活用しながら、教員一人一人がキャリアに応じた適切な目標を設定できるよう指導・助言していく。教務主任と協力し、校内の研修を本校の実態に合った効果的な内容にしていくと共に、校外の研修についても目的意識を持って積極的に参加させる。時代の変化に対応するため、継続的に新しい知識・技能を学び続けていくことが求められている。そのため、年齢や経験年数に関わらず、研修で幅広い知識や指導技術を獲得して資質能力を向上させるよう教務主任としての経験を生かして働き掛ける。さらに若手教員には、研修の事前に着眼点を伝えたり、事後に振り返りを共有して実践に生かすポイントを確認したりし、研修の効果を高めたい。
教員一人一人が自信を持って子どもたちや保護者の前に立てるよう、惜しみなくサポートしていく。
これまでの教職経験をもとに発言するベテランの意見には重みがある一方、若手の今の時代に合った感覚からの提案は学校に活気を与える。また、ICTの活用においては格段に若手の方が力を発揮する。それぞれの良さを生かし、互いに高め合えるよう、チームを組んで授業づくりや分掌業務に臨めるようにする。教員数の少ない本校では、複数の分掌をかけ持つことになるが、担当分掌が増える負担以上に、協同で業務に向かう充実感や相談し合える安心感は高まるであろう。教員一人一人の持ち味を生かし、効果の高まる組み合わせを校長へ具申し、組織的・計画的な人材配置・人材活用を考え、組織としての能力を向上させる。
よりよい教育の実現には職場の同僚性が欠かせない。教員だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、養護教諭、栄養教諭、事務職員、支援員など、構成する全ての教職員が一つのチームとなって、子どもたちの健やかな成長のために連携・協力できる関係性を構築したい。困ったときには声に出して互いに相談し合い、知恵を出し合って問題解決に当たる。それぞれの立場からの視点で、子どもたちの特性や些細な変化について情報共有したり、成長を共に喜び合ったりできる対話のある職員室を目指す。そうした職員室内の対話から、新たな気付きが生まれ、互いの成長につながることは十分に想定される。また、対話から生まれる関係性は教職員の働く意欲にも大きく影響するであろう。そのためには積極的に声を掛け、職員同士をつなぐ役割を担っていく。一人一人が自己の才能を発揮し、それぞれを尊重する雰囲気から組織力を向上させていく。
これらの取り組みを通じて、教員一人一人の力量を高め、職場全体の一体感を醸成することで、教員集団の資質向上を図れると考える。
私は教頭として、教職員とのコミュニケーションを密にし、「職員室の担任」を目指す。そして一人一人の能力を認めながら、互いに高め認め合う職場環境をつくり、人材育成に力を注いでいく所存である。