【驚異の校務総クラウド化】 ミドルリーダーのワーク&ライフ

【驚異の校務総クラウド化】 ミドルリーダーのワーク&ライフ
【協賛企画】
広 告

 GIGA端末と汎用(はんよう)のクラウドツールを最大限に活用し、コストパフォーマンスに優れた校務DXを推進する東京都練馬区立豊玉小学校の鈴木智裕主幹教諭。教職員間や子ども、保護者との情報共有やコミュニケーションが迅速にできるようになれば、自身を含め子育て世代への恩恵は大きいと実感している。だが、さまざまなアイデアの源は職務への責任感からだけではなさそうだ。学校でも家庭でも楽しみを見つける、ミドルリーダーのワーク・ライフ・バランス論を聞いた。(全3回)

DXは面白い

 ――校務DXに積極的に取り組む理由は。

 2つの側面があると考えています。1つは、やはり先生方の負担を減らしたいということです。教員の仕事にはまだまだ無駄が多いです。伝言のために校内を歩き回ったり、印刷物も多かったりします。そこを何とか減らしていきたいと考えています。

 特に子育てなどで忙しい時期は皆、「もっと仕事をしたいけれど難しい」「職場の仲間との関係を考えた上でも、この仕事は自分で請け負いたいのに、結局できない」という、悔しさや申し訳なさを抱えながら仕事をしていると思います。

 校務の無駄が削減できれば、結果として他の仕事に時間を回せます。機械にできることは機械に任せる、続けていても意味が見いだせないものはやめる、そんな判断ができる。それが校務DXに積極的に取り組む理由です。

 もう1つの理由は、単純に「DXって面白い」と思ってしまったことです。デジタルサイネージに表示される項目で、「学校があと何日あるか」という日数計算や、週案簿の「今週で総授業時数のうちどこまで進んだか」などの時数計算は、カレンダーなどのデータを取得して関数を使えば全てコンピューターが自動計算して、勝手に情報として出してくれます。それらと学校行事などの教育活動は連動していますから、何と何の情報をつなげば仕事の軽減や情報共有になるだろうという、実験的な気持ちが湧いてくるのです。「チャットを夕方に入力しても朝に届くような予約送信の仕組みはないだろうか」と、思い付いたら試してみたくなるのです。

 アイデアを具現化して、それで先生方が「便利だ」と言ってくれたらうれしいし、もっと「こうしたらいいのでは」という提案も大歓迎です。ただし、こればかりしていると、自分の好きなことに周りを付き合わせているのではないか、と思えてくるのでそこは気を付けています。業務軽減が第一なのは変わりありません。

業務軽減になる情報の組み合わせを考えるのは楽しい、と語る鈴木教諭=撮影:宮島折恵
業務軽減になる情報の組み合わせを考えるのは楽しい、と語る鈴木教諭=撮影:宮島折恵

学校運営の可視化がもたらす効果

 ――プログラミングはどこで学んだのですか。

 独学です。数年前から始めて、ここ1年はYouTubeとChatGPTを活用して学びました。スプレッドシートの使い方は動画でいくらでも勉強できますし、ChatGPTに「こういうことをしたい」と相談すると、コードを提案してくれる時代になったのです。それを修正しながら使っています。

 校務DXの環境を工夫してみて、学校の仕組みの見え方も変わってきました。教務主任としてカリキュラムや行事のつながりを意識するようになり、行事予定を組む際の意識も変わりました。こんなふうに行事を予定すると、先生方はこんなふうに動くかな、という全体のイメージが見えてくるのです。すると、今度は先生方一人一人が何をしているかを想定した上で、予定を立てられるようになるのです。

 これまでも紙の上で同じ時間管理の仕事をしていたのですけれど、クラウドでやってみると違いが分かります。これは全職員が感じていることだと思いますが、週案がクラウド上で可視化されているので、他の先生方が何をしているのかを分かった上で、自分の予定を立てることができるようになりました。互いの仕事の兼ね合いを見たり、他の人の動きを意識した行動ができたりするようになっています。

 特に、同じ学年の学級間で情報共有ができると、学年主任の考えをくみながら仕事ができます。学年の週案を見れば時間割の中身も書き込んであるし、作った教材もリンク付けしてあるので、どの授業でどんなことをやるのかが分かり、何度も打ち合わせをしなくても進度を合わせられるようになりました。振り返りもしやすいです。これが積み重なっていくと、学校全体がどのように運営されているかが把握できます。

校務DXで教員一人ひとりの動きをイメージした時間管理スキルが向上した=撮影:宮島折恵
校務DXで教員一人一人の動きをイメージした時間管理スキルが向上した=撮影:宮島折恵

 ――校務DXが働き方改革に結び付く実感がありますか。

 働き方改革の推進には間違いなく効果があります。ただし、興味深いことに校務DXが進んだからといって、先生方は必ずしも早く帰るばかりではないのです。会議も減り、完全ペーパーレス化で印刷時間もなくなって無駄な仕事が減った分、授業づくりにより多くの時間を割けるようになったのです。それは教員である以上、責任感を持って仕事をしていると解釈しています。

 ただ、最近は会議が減り過ぎて、情報共有に課題が出てきたため、2025年度からは運動会などの大きな行事の際には改めて会議を設けることも検討しています。みんなでじっくり話す場面と、文書で連絡してデータで共有すればよい場面をしっかり分けていこう、という方向になってきています。

リラックスしているから「ひらめく」

 ――主幹教諭として大事にしているのは、どんなことでしょうか。

 人と人とのつながりです。主幹教諭にもいろいろな考えの人がいると思いますが、私は基本的に職員の側に立って仕事をしているつもりです。校務DXに力を入れ始めたのも、先生方の時間を作りたいという思いからです。言うべきことは言わなければならない立場でもありますけれど、職員の集団の居心地が良くないと仕事は進まないので、デジタル化が進んでもドライにならないようにすることが一番大切だと考えています。

 私自身の働き方としても、子どもがまだ小さいので、今は仕事と家庭のバランスを優先させるように心掛けています。教職とは別の可能性も探ってみたいといった考えは持っていません。仕事面で安定しているからこそ、家庭での生活や自分の趣味を大切にできるのです。学校のことは学校で終わらせて、子どもと過ごす時間を大切にしています。

 ――自分の時間も大事にしているのですね。

 DIYや家具作りが好きで、最近では家の中に子どもが登れるボルダリングの壁を作りました。登るときにつかむホールドというパーツは、今はネットで買えます。角を丸くするなど安全面にも注意して、子どもが登れる間隔に調整し、取り付けました。

 洗面所の下の収納や、テレビ台などはぴったりとフィットするように設計して作ると気持ちいいんですよね。最近はギターにもはまっていて、そのスタンドも自分で作ってしまいました。ものづくりが好きなことも、学校で役立っています。職員室に大型ディスプレーを取り付けるときは、主事さんがパーツを探してきてくれて、2人で壁にがっちり固定しました。

 庭仕事も大好きで、特に芝生の手入れに力を入れています。西洋芝と日本芝を使い分けて、1年中、青い芝生を楽しめるようにしています。スプリンクラーシステムも設置しました。こんなふうに物をつくったり、手を動かしたりしているときに、ふと校務DXのアイデアが浮かんでくることがあります。そうすると夜中でもプログラムを書いたりしています。

玄関のデジタルサイネージ。校長の「今週のキーワード」や「今日の給食」など情報満載だ=撮影:宮島折恵
玄関のデジタルサイネージ。校長の「今週のキーワード」や「今日の給食」など情報満載だ=撮影:宮島折恵

【プロフィール】

鈴木智裕(すずき・ともひろ) 長野県出身。東京学芸大学大学院を修了後、東京都の教員採用試験に合格。2012年から主幹教諭。現在の練馬区立豊玉小学校が4校目となる。前任校の関町北小学校時代に、GIGAスクール環境のもとで校務DXに着手。現任校でもその経験を生かして校務改善を続けている。

広 告
広 告