【教員の「やりたい」を起点に】 研究・研修をアップデート

【教員の「やりたい」を起点に】 研究・研修をアップデート
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 教員の仕事を、「やらねばならぬ」から「やってみたい!」へ――。従来の校内研究を一から見直し、「フェス形式」と銘打って実施した研究発表会が大きく注目された、埼玉県蕨市立北小学校。その大転換をけん引したのは、2021年度に同校で研究主任を務めた葛原順也氏だ。「教員の仕事をモチベーションベースに」と語る葛原氏に、研究・研修をアップデートする上で基本とした考え方や、取り組みの成果を聞いた。(全3回)

できなくて当たり前

――研究発表会が大きく注目され、共著『ごく普通の公立小学校が、校内研究の常識を変えてみた』も刊行されましたね。さまざまな当たり前を覆すということで、苦労も多かったのでは。

 そうですね。うまく進まないことや失敗も多く、「なんでこんな面倒なことを始めてしまったんだ」と投げやりな気持ちになることもありました。研究のことを考える時はたいてい頭を抱えていましたが、一緒に頭を抱えてくれる仲間の存在は本当に大きかったなと思います。

 学校を巻き込んで何かをするのに、一人の力でできることはほとんどありません。こうして一つの実践として本にまとめられたのは、一緒に研究・研修を担当してくれた花岡隼佑先生と小林千尋先生はもちろんのこと、大きな方向転換を後押ししてくれた管理職の先生方、そして何より、いろいろな思いを抱えながら一緒に研究を進めてくれた先生方のおかげだと心から思います。

埼玉県蕨市立北小学校で研究主任を務めた葛原さん=オンラインで取材
埼玉県蕨市立北小学校で研究主任を務めた葛原さん=オンラインで取材

――葛原さんは研究主任だったのですよね。北小学校には長く勤務されていたのですか。

 はい。15年度から北小学校に勤務していて、研究主任の前は学年主任や生徒指導主任をしていました。その中で研究の在り方に対する課題意識を抱くようになり、21年度に研究主任になったんです。

 その際、副主任になってくれたのが花岡先生でした。22年度には研究主任を小林先生にバトンタッチし、私は教務主任として、研究・研修のマネジメントを一緒にやらせてもらいました。

熱中して学べる研修を

――校内研究を一から見直したほか、研修についても「時短ビンゴ」「北カフェ」「サイコロトーク式学級経営研修」など、新しいアイデアを次々と実現させましたね。こうした転換を、どのようにして実現させたのでしょうか。

 このインタビューを受けるにあたって、「どうやったら研修がうまくいくか」について整理しようと思い、小林先生と電話で話したり、花岡先生からテキストで意見をもらったりしたんです。その上で当時を振り返って考えたのは、「方法論じゃない」ということです。

 「こうやったらうまくいく」というのは、私たちにも分かりません。ただ、常に大事にしていた3つのことがあるんです。

 大前提として、先生方にとって「個別最適な学び」と「協働的な学び」にしていこうということ。これが1つ目です。

 2つ目は、スクラップアンドビルドのイメージで、ただ新しいものを取り入れるというのではなく、今までやっていたことを目的に即して見直すこと。個別最適で協働的な学びに近づけていくために、研修として今まで一斉一律でやっていたことをやめるとか、やり方をガラッと変えるということをしました。

「教員にとっての個別最適で協働的な学びを」と話す=オンラインで取材
「教員にとっての個別最適で協働的な学びを」と話す=オンラインで取材

――1つ目の、教員にとっての個別最適で協働的な学びを最上位の目的としたのですね。3点目は。

 実施する時期をよく考える、ということです。今までやってきた研修についても、時期を一つ一つ検討して、例えば「4月の1週目に一斉にやっていたけれど、一気に詰め込んでも頭に入らないし、年度当初でなくてもいいのではないか」というものは6月に変更するとか、夏休みなどで余裕がある時期に、みんなで教材研究をして持ち寄る時間を作るなどしました。

 先生方のニーズに合わせたものを、ニーズに適した時期にやるということです。内容によって希望制に変えたりもしました。

――教員のニーズに応じた研修というのは、考えてみたら当たり前なのに画期的だと感じます。教員研修は例年通りのことを恣意的に進める、といったところも少なくないのではないでしょうか。

 研修と名のつくものは、どうしても一方的に、一律一斉型になりがちです。言わば「インプット主体」の研修ですね。

 私が初任者だった頃は、夜遅くまで学校に残るのが常態化していました。日々生き延びるだけで精いっぱい、という生活だったんです。そんなギリギリの状態で受ける初任者研修の時間に、「寝てはいけない!」と思いながらも、ふと意識を失ってしまうことが何度かありまして…。それである日、管理職の先生に声を掛けられ、研修の態度について指導を受けたことがありました。今考えても、本当に恥ずかしいなと思います。

 しかし当時、反省する一方で、「子どもが眠くなる授業をしたら教員の指導を見直すべきで、それは当然。でも、研修で教員が眠くなったら、眠くなった教員が責められるのはなぜだろう」という疑問も抱きました。

 ひどい他責思考にも思えますが、この視点は、研修をマネジメントする側になってからとても大切にしているものです。研修で前に立ってくださる先生も忙しい中、時間を割いてくださっているのに、聞いている側が退屈に感じてしまうのはあまりにももったいない。人ではなく仕組みを改善して、お互いによりよい研修にできないだろうかと考えるようになりました。

 そこで、「受動的・インプット中心から主体的・アウトプット中心へ」「一律一斉型から個別最適へ」「孤立的な校内研から協働的な校内研へ」を大事にしようと決めたんです。この部分は常に軸として、ブレずにもっていたなと思います。

 

【プロフィール】

葛原順也(くずはら・じゅんや) 元埼玉県蕨市立北小学校教諭。2021年度より蕨市立北小学校にて「先生も子どもも幸せになる校内研究」を目標に、研究主任を担当。従来の校内研究の形に疑問を投げ掛け、本来の目的に立ち返る在り方を追究している。教育コミュニティー「EDUBASE」のクルー。

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