【教員の「やりたい」を起点に】 トライ&エラーの精神で

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 「教師のハッピーが児童のスマイルに」を合言葉に、研修や研究を大きく変えた埼玉県蕨市立北小学校。研究主任などとしてその立役者を務めた葛原順也氏に、インタビューの最終回では、教員が幸せになれる環境の在り方や現場に向けたメッセージを聞いた。

「まずやってみればいい」

――「うまく進まないことや失敗も多かった」ということでしたが、それでも続けられたのはどうしてだったのでしょうか。

 もともと北小学校には、職員会議で教員が新しく何かの行事を提案したら、その行事が終わった後で必ずアンケートを取るなどして反省内容を募り、次に生かすという方法が定着していました。それぞれの部会で新しい提案を練る時も、「まずはやってみて、反省を次に生かしたらいいんじゃない?」という先生方の言葉をよく聞きました。

 だから、「まずはやってみよう」とか「取りあえずやって変えていこう」といった風土が、北小学校にはあったと思います。そこに、当時の松原好子校長先生が「失敗していい」と言い続けてくれたことが加わって、研究や研修にも「トライ&エラー」の雰囲気が根付きました。

――著書にもありますが、研究に対するイメージが「やらねばならぬ」から「まずはやってみよう」になるというのは、素晴らしい変化ですね。

 研究で見られがちなのが、「これはやるものなんだ」という思い込みで、手段が目的化してしまうことです。何のために研究や発表をするのかという目的を忘れて、たった1時間の切り取った授業を見せることに全振りしたり、研究発表会を開くことが目的になったりしてしまうというケースです。

 研究に限らず、目的を見失うというのは学校現場で起きがちです。それは、学校というのが、自分が子どもだった頃に受けた教育を再生産しやすいサイクルにあるからだと思うんです。

 子どもの頃、「音読の宿題は何のためにやるんだろう」とか、「授業のあいさつは何のためにするのか」と、学校でする活動の目的をみんなで話し合うことってあまりないですよね。少なくとも私は記憶になくて…。そのため教員になってからも、自分が受けてきた教育に対して納得しているわけでもないのに疑問を抱くこともなく、音読カードでも漢字ドリルでも、あいさつや掃除の仕方でも、目的を見失って、「これはこういうものだから」ということでやっているものが、すごく多いと思うんです。

「手段が目的化していないか見直すべき」と指摘する葛原さん=オンラインで取材
「手段が目的化していないか見直すべき」と指摘する葛原さん=オンラインで取材

「先生方は何のために」

――葛原さんは、これからの学校がどうなっていくとよいと考えますか。

 まずは、先生方が心と時間の余裕を持てるようになることです。時間の余裕については、仕事がある程度効率的に進むようになって、業務が改善された状態になれば達成されると思います。

 ですが心の方は、どれほど早く仕事が終わっていても、「学級経営がうまくいっていない」とか「大人との人間関係がうまくいっていない」とか、あるいは子育てや介護など家庭で抱えているものがあると、余裕が担保されないということにつながります。

 今はまだ、心の余裕が担保されている学校はほとんどないと思うんです。そこを大事にしようという思いが、職員室で共有できている状態を目指したいと思っています。

 そのためには、対話がすごく大事だということを実感しています。それは、先生方が「これを言ったら、どう思われるかな」「恥をかくかも」「場違いじゃないか」といった不安を抱かず、本音で信念を話せる対話です。対話との両輪で先生同士の関係性が高まっていくというような、そういう職員室が増えていくといいなと思います。

――「対話」と「関係性」は、北小学校の校内研究でもキーワードにされていました。同校で積極的に設けた対話の場を、今後も展開していきたいということですね。

 そうですね。いずれ学校現場に戻ったら、有志でゼミをつくってみたいです。2~3週間に1回など、先生方が望む頻度で、学級経営についてでも指導実践についてでも、先生たちの関係性を高めて、心の余裕が生まれるような活動をやってみたいと思っています。

 北小での研究でも、大事にしていたマインドは、「子どもも先生もハッピーに」でした。「子どものためだから、苦しくても頑張ろう!」よりも、「子どもも先生もハッピーになる方法を考えよう!」の方が、よりよいアイデアが生まれるはずです。こういった考え方は、『さる先生の「全部やろうはバカやろう」』などの著書で知られる坂本良晶さんに影響されているところが大きかったです。

「対話」と「関係性」をキーワードに語る=オンラインで取材
「対話」と「関係性」をキーワードに語る=オンラインで取材

――北小学校の研究のテーマにも、「教師のハッピーが児童のスマイルに」というフレーズを掲げていました。坂本さんから影響を受けながら、オリジナルの校内研究を生み出していったのですね。

 実はもう一つ、私がすごく尊敬している先生がいらっしゃって、その先生の言葉も大きいんです。その先生はもう退職された校長先生で、市内のオンライン研修の中で、全教員に向けて、「先生方は何のために働いていますか」と問い掛けたんですよ。

 皆さん、「子どものため」というのがパッと頭に浮かんだんじゃないかと思います。あとは「学力を高める」とか「体力を高めるとか」…。私もそう思いました。でもその先生は、「皆さんは、幸せになるために働くんですよ」というふうにおっしゃったんですよ。

 これは心に刺さりました。子どものために身を削るのではなく、子どもも幸せになれるし、先生も幸せになるために、いい方法を探そうと考えるようになりました。

――2023年度に「北フェス」として開かれた研究発表会でも、メイン会場の入り口に「皆さんが思う『幸せな校内研究』ってなんですか?」と問い掛けるボードが設置されていましたね。

 教員という仕事が自分の幸せをかなえられるものであってほしいということは、強く思うところです。

 教員の負担軽減とか魅力向上といったことがよく言われていますが、私は、教員という仕事が一番苦しかった時期は、脱したのではないかと思っています。業務量が問題視されてきましたが、「変わらなければ」という意識は浸透してきていて、仕事を効率的に進めようという雰囲気はできてきたのではないでしょうか。もちろん、苦しんでいる先生もいらっしゃると思うので、軽々しく言えませんが。

 でも、私はすごく魅力的な仕事だと思います。これだけ子どもの成長を喜べたり、子どものことで同僚と真剣に話をしたりできる、そんな仕事はなかなかない。学校現場を離れたことで気付きました。本当にいい仕事だと思っています。

 メディアやSNSサイトなどで「教員はものすごくしんどい」と伝えられることもありますが、それを変えていくのは遠くの偉い人ではなく、すぐそばにいる一人一人の先生方の思いだと思っています。教員を志す方々にも、そんな気持ちを持ってもらいたいですし、一緒によりよい未来を創っていきたいなと思います。

 

【プロフィール】

葛原順也(くずはら・じゅんや) 元埼玉県蕨市立北小学校教諭。2021年度より蕨市立北小学校にて「先生も子どもも幸せになる校内研究」を目標に、研究主任を担当。従来の校内研究の形に疑問を投げ掛け、本来の目的に立ち返る在り方を追究している。教育コミュニティー「EDUBASE」のクルー。

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