教師力・人間力―若き教師への伝言(86)大切にしたいこと

教師力・人間力―若き教師への伝言(86)大切にしたいこと
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 夫の海外赴任に伴い、2年生と保育園年少の子どもたちを連れてアメリカで3年間暮らしました。子どもたちは、月曜日から金曜日までは現地の学校に、土曜日は日本語補習校に通いました。そこは現地の小中学校に通う日本人の児童生徒が通う学校で、日本の小中学校と同様のカリキュラムで授業が進められていました。

 そのときに強く願ったことは、補習校の先生方に、丁寧な表現を意識して日本語を話してほしいということでした。現地校に通うわが子にとっては、家庭で話す日本語と補習校で先生方や友達と話す日本語が貴重な日本語習得のための言語環境だったからです。子どもたちの先生方は丁寧な日本語を話される方々で本当にありがたく思いました。

 帰国後、5年生になった娘は英語は流暢になりました。一方で、日本で育っていれば当然読めるに違いない「元日」を読めませんでした。私は小学校の教員に復帰しましたが、この経験を通して、自分が教室で児童に与える言語環境の影響の大きさを心に刻み、児童と接していこうと決めました。児童は、担任である私が話す言葉を毎日聞いて、自分の言語経験を積み上げていきます。児童が話す言葉は担任である私が話す言葉の映し鏡です。私が丁寧な言葉で話せば、児童も丁寧な言葉で話すでしょうし、乱暴な言葉を使えば、児童の言葉も乱暴になるでしょう。よい言語環境をつくることは、私の大切な課題となり、日々、正しい日本語や丁寧な表現で話すように心がけました。

 すると、「静かにします」とか「先生の話を聞きます」というように、私が語尾まで丁寧な表現で言い切る方が、児童がこちらが意図したように行動できることに気付きました。

 今では、合理的配慮の一つの方法として、短い表現で言い切りの形で指示を与える方が児童生徒はよく理解できることが知られています。また、人権尊重の側面からも、教員の言葉遣いは丁寧であることが求められています。名前は「○○さん」と敬称を付けて呼ぶことがスタンダードです。私は、丁寧な言語環境が定着している教室では、児童生徒の言動も落ち着きが見られると感じています。ぜひ、若い先生方にも、ご自分がつくり出される言語環境に留意していただきたいと思います。

 また、私たち教員の喜びは何と言っても授業中、児童生徒から「先生、分かった」「できた」という声が聞かれることです。分からないことが分かったときの児童生徒の目は「輝いている」という表現がぴったりです。そのような声が聞かれ、表情が見られたとき、私の心も喜びでいっぱいになったことを思い出します。

 児童生徒が分かった、できたと実感できる授業を実践するためには、やはり教材研究が欠かせません。教材研究がしっかりとできているときは、私たち教員も「早く授業がしたい。児童生徒はどのような学びを見せてくれるだろう」とわくわくします。自信をもって授業に臨むことができます。私は指導書をよく読みました。自信のない教科は特に読みました。教員がその授業のねらいや、ねらいに到達するまでの手立てをはっきりともって授業に臨むことは最も大切にしたいことです。どの児童生徒も勉強ができるようになりたいと思っています。その思いに応えられるよう準備を整えることを大切にしていただきたいと思います。

 最後になりましたが、「言語環境」と「教材研究」を大切に、何よりもご自身の健康に留意され、笑顔で児童生徒の前に立てる教員でいてください。

(細田名保美・弥富市立十四山東部小学校長)

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