「このニュース、どう思う?」――。日々報道される教育ニュースについて、学校現場の教員目線で語るコラム「職員室の立ち話」。いよいよ新年度を迎えました。文部科学省のいじめ防止対策協議会では、新年度に向けて「いじめに対する平時からの備えの徹底を」との声が相次ぎましたが、各校がやっておくべき「平時からの備え」とはどんなことなのでしょうか。公立小学校校長時代、いじめや不登校対策に力を入れてきた教育コンサルタントに話を聞いてみました。
今日の話題
今日はこの人と立ち話
元埼玉県公立小学校校長・教育コンサルタント 田畑栄一氏
このニュースではいじめに対し「平時からの備え」が大事だとありますが、その中でも4月当初の取り組みが一番重要だと思います。
私は校長時代、いじめや不登校の対策に力を入れてきました。4月当初に学校でやってほしいことを3つ、ご紹介したいと思います。
まず1点目に、「いじめの定義」を教職員、子どもたち、保護者と共有し、明確にすることです。地域にも伝達することができればベストです。
トラブルが起きたときに一番困るのが、それぞれの「いじめの定義」の捉え方が違うことです。いじめ防止対策推進法では、いじめの定義を「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」としています。
保護者にまで共有するのが難しいのですが、入学式や保護者会など、4月の保護者が集まる場で、早めに共有しておくことが大事です。それが後々のトラブルを減らすことにもつながります。
2点目に、「学校は被害者を守り抜く」ことをきちんと伝えることです。これを言い切れていないから、加害者の保護者に「この程度のことで」などと言われると、学校側がひるんでしまう傾向があるのではないでしょうか。
また、今はすべての学校に「学校いじめ対策組織」が設置されています。そうした組織があることを子どもたちや保護者にも伝え、「誰かに相談すれば、その組織が守ってくれる」という安心感を学校に作っていきましょう。
3点目に、子どもたちの正義感を育て、子どもたちが大人に対する信頼感が持てるようにしなければいけません。
いじめには「被害者」「加害者」「観衆」「傍観者」の4層構造があると言われています。可能な限り「観衆」をなくしていくことと、「傍観者」を生み出さないような学校の空気をつくっていくことが教育です。
子どもたちの正義感を育まなければ、教室の中に正義は生まれませんし、学校の空気は温かく変わっていきません。そのために、4月の段階で道徳教育や特別活動、自殺予防教育など、いじめを生まないような人間関係をつくる年間カリキュラム計画をつくっておくとよいでしょう。
今、「いじめが起きてしまうのは当たり前」という風潮を感じます。しかし「いじめが起きたら何とかしよう」という考えでいると、教員は子どもたちの言葉に敏感になれません。ニュースの中で、委員が「いじめ自死ゼロ、重大事態ゼロを目指して取り組むべきだ」と指摘していますが、そのくらいの意識が必要です。
クラスの雰囲気に心を痛めて学校に行きたくないという子が、今すごく増えています。学校の空気が柔らかくなって、人を傷つける雰囲気がなくなれば、子どもは学校に通いたくなります。
いじめが少ない学校には、何らかの共通したヒントがあると思います。文科省には、今後そうしたことも調査してほしいと思います。
【プロフィール】
田畑栄一(たばた・えいいち) 教育コンサルタント。前埼玉県公立小学校校長。埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。現在は、全国各地での講演や研修を実施し、私立学園中学校・高等学校国語科講師も務める。著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)など。NHK EテレなどTV出演も多数。NPO法人東京メンタルヘルス・スクエア理事・教育コンサルタント、こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。