学校給食の無償化へ向けた議論が進む中、給食への有機農産物の活用などを進める団体や自治体関係者、消費者などが無償化に伴う課題について考える院内集会が5月1日、衆議院第一議員会館で開かれた。集会では参加者と文部科学省や農水省の担当者との質疑などが交わされ、参加者は各省担当者や国会議員らに対し、「給食の無償化は未来志向の制度改革と位置付けるべきで、全ての子どもに『学ぶ・食べる・育つ』環境を保障することを求める」などと要望した。
この集会は、有機農業の普及などに取り組むNPO法人全国有機農業推進協議会やオーガニック学校給食フォーラムなどが主催した。学校給食の無償化を巡っては自民党、公明党、日本維新の会の3党が2026年度から小学校で始めることで合意し、現在、具体的な制度設計に向けた協議が続けられている。
集会ではこうした動きを踏まえ、初めに高橋優子実行委員長が基調報告で、「無償化は保護者の負担軽減の観点から歓迎すべき一歩だが、制度設計によっては自治体が独自に確保してきた給食予算が縮小され、安価で画一的な給食になって学校給食の質の低下を招く懸念も広がっている」と述べ、「子どもたちにとってより良い学校給食の未来を共に提言したい」と呼び掛けた。
また、給食無償化の実施・未実施自治体双方の職員や保護者・市民などを対象に、給食無償化に伴う懸念や期待などを尋ねたアンケート調査の結果が報告された。この中では、未実施自治体の保護者・市民の75%が無償化に伴う課題や懸念について「質の低下」を挙げるなど、実施・未実施にかかわらず給食の質の低下を懸念する声が強いことが示された。また、約90%の保護者・市民が地場産・有機食材の積極的な活用を希望しているものの、「価格差」や「流通の不備」などの理由で現実的には導入が難しい状況も浮き彫りになった。
続いて会場では、文科省と農水省、内閣府の学校給食に関わる関係者を招いた質疑が交わされた。このうち無償化への基本的な考え方を尋ねられたのに対し、文科省健康教育・食育課の樫原哲哉課長は、3党合意で示された論点として▽学校給食法との関係▽児童生徒間の公平性▽地産地消の推進を含む給食の質の向上▽国と地方の関係――を挙げた上で、「3党の合意文書にあることは重要視して考えなければならないと認識している。財源は政府全体で徹底した行財政改革とあるので、政府全体で検討すべきということだと思う」と答えた。
また、無償化により地場産や有機農産物の利用が困難になるのではないかとの懸念については、「積極的に地場産などを活用する必要があると認識しているが、価格だけでなく安定的に一定のロットを入手する環境を整えられるかどうかなどの課題がある。農水省の事業などを通して安定化につながるといいと思う」などと答えた。
集会では、給食無償化に向けた政策提言として、▽無償化と食育を一体的に推進する法制度の整備▽教育、農業など複数の政策を連携して推進するための官民連携の「推進協議会」の設置▽自治体が中長期的に食育と地域農業を推進するための新たな交付金制度の創設――を提案。
その上で最後に「無償化は単なる福祉政策ではなく、教育、農業、地域、環境などの政策が交差する未来志向の制度改革と位置付けるべきで、全ての子どもに学ぶ・食べる・育つ環境を保障することを提案する」と提言し、出席した各省の担当者や国会議員らに実現に向けた取り組みを要望した。