自由進度学習に詳しく、関連著書もある北海道の公立小学校教諭・難波駿さんが6月14日、茨城県の公立小中学校教員の研修で講演し、子どもたちが主体的に学ぶ自由進度学習について動画も交えて説明した。「取り組み始めたが、難しい場面もある」「どうやって始めたらよいか」といった教員の悩み、疑問に答えた難波教諭は「子どもに学びを委ねる方法はまだまだ知見も足らず、自由進度学習の難しさを感じる場面もあるが、どうしたらよいか一つ一つ仮説を立てて、やっていくことが教育を前に進める」とエールを送った。
難波教諭が講演したのは茨城県教育研究会によるフレッシュ研修会。若手教員向けの自主的な研修、交流の場として水戸市の教育プラザいばらきで定期的に開催されている。この日は中堅、ベテランの教員や管理職を含めて県内の小中学校教員ら約120人が参加。「子供たちの主体性を育む自由進度学習~自分のペースで学びを深める」と題し、難波教諭が講演した。
難波教諭は「自由進度学習は選択肢の一つ。一斉授業と自由進度学習、どちらも大切」と切り出し、「解決したい教育課題として、誰一人取り残すことのない教育をすること」と語った。教科の内容の理解度に個人差があり、どこの部分により時間をかけて学習すればよいかも児童生徒一人一人違いがあるとして、分からない部分はゆっくり時間をかけるなど、それぞれのペースで学習する子ども中心の授業が必要と訴えた。
また、単元内自由進度学習では、単元に要する時間、進め方など教師が持っている見通しを、子どもたちに示すことが重要だとして、単元進度表の事例も紹介。そして、「見通し、行動、振り返り」のサイクルで進めていることや、「単元の初めは教師主導の割合が多めのイントロダクション。真ん中ぐらいに子どもたちが主導して、グループで話し合って何をするか計画を立て、授業が終わったら今日はどうだったか考える。単元の終わりは教師主導のリフレクション」といった進め方のイメージも提示した。
その上で、自分のペースやスタイルに合わせて学ぶ個別最適な学びと、友達と意見やアイデアを出し合い、協力して学びを広げたり深めたりする協働的な学びを行ったり来たりする、「個別探究と協働探究の往還」が大切だと強調した。
難波教諭が今年度、実践した事例では、小学3年生の社会科で、みんなで教科書を読み、各ページの要約を一言で書かせたという。児童は教科書のどこを見れば何が分かるか見通した上で、調べたいことを調べるといった手法。難波教諭はこうした説明に加えて、実際の授業や、教室での朝の様子などを撮影した動画も紹介した。
参加者のグループ討議を挟んだ後の質疑応答では、参加者から多数の質問があり、難波教諭は板書の工夫、ICTの活用などにも触れて解説した。
研修終了後も多くの参加者が難波教諭と交流。互いに大きな刺激を受け、難波教諭は「茨城県内には熱量を持って学んでいる先生が各地にいることが分かった。これを自分の地域にも持ち帰り、力を合わせてより良い教育にしていきたい」と話していた。
日立市立塙山小学校の川本康太教諭は「自由進度学習を実践し、子どもたちはみんな歓迎しているが、学びの質は子どもによって違う。その質を上げていきたいが、子どもたちが互いに学び合うため教師が学びのモデルになり、授業だけでなく日常の中で意識していくことが重要だと確信できた」と手応えを示した。
質疑応答での主なやりとりは次の通り。
――動画の中では子どもたちがわくわくして学んでいる様子が分かる。どのように導入していくのか。
難波教諭 導入で意識しているのは成果物を示し、やってみたいという思いを引き出すこと。例えば、生活科で風を受けて動くおもちゃを作るなら、まず自分が作った物を見せて面白そうと思わせる。また、子どもに対するアドバイスも周りの子にも聞こえることを意識すると、自分に言われていないアドバイスを取り入れて子どもたちが主体的に動くこともある。
――自由進度学習を進めやすい教科は。
難波教諭 全くやったことがないのであれば、漢字学習や算数で一斉授業型から、おのおのの子どもたちに何が必要か考えてもらう授業に切り替えるのが最初はやりやすい。特別活動、運動会、修学旅行などで子どもたちに活動の進め方を任せてきた実績があれば、その感覚を国語、算数、社会、その他の教科に応用すればいい。
――昨年度から自由進度学習を進めている。一見できているようで、できていない子を見ていく点で気を付けていることは。
難波教諭 大事にしているのは、こちらから質問をして問い掛けること。課題を調べてみようという学習でも、教科書を丸写ししている子もいる。『それってどういうこと』と問い掛け、本当に分かっているのか様子を見て、どこが足らないのかアドバイスを送る。
――高学年の社会や算数など内容が膨大で、時数も必要な場合がある。単元テストでも押さえるべきところは押さえなければならない。単元の時間のマネジメントで悩んでいる。
難波教諭 自分も20代の頃は全部やらなければならないと考えていたが、目的は子どもたちの力を付けることで、教科書を終わらせることではない。調べてみると、裁量でできる部分は大きい。「この単元は、この観点とこの観点、この観点から調べたり、違いや共通点を見いだしたりする力を付けることが目的だ」などと考えていくと、最初の1時間でこうした観点を凝縮して示し、後は子どもたちに委ね、全ての観点を見た中で生まれた問いとか、調べたいところを深めていったり、対話したりする時間に充てることはある。
――子どもの振り返りシート、3クラス分にコメントを入れると、かなり時間がかかる。負担軽減はどうすればいいのか。
難波教諭 なるべく放課後の時間は使わない。授業中がポイントになる。コメントは打ち込まず、その時、声を掛けるなど直接的なやりとりを大事にする。6年生では、メモ欄を作っておき、教師のアドバイスを子どもに記入させる手法も取った。漢字の小テストの結果なども、子どもたちに記録させている。また、単元の最初は単元を見通す時間として、子どもたちとやりとりしながら学習計画やテストの時期を決めて板書で見通しを示し、同時にワークシートも作る方法もある。
【キーワード】
自由進度学習 児童生徒が計画を立て、それぞれの進度で学んでいく学習方法。特定の教科の一つの単元の中で行う「単元内自由進度学習」や、複数の教科や単元にわたって行う自由進度学習がある。