授業の「ネタ」が「市場」のように集まるサイト⁉ 元教員が発案

授業の「ネタ」が「市場」のように集まるサイト⁉ 元教員が発案
iStock.com/Milatas
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 公立中学校の元教員が、学校現場で業務に追われる教職員を助けようと立ち上げたサービスがある。自作の授業教材や指導案などをシェアできるサイト「せんせい市場」だ。立ち上げたのは、登録者数55万人以上(2025年6月時点)を誇るYouTubeチャンネル「やんばるゼミ」も運営する、水野孝哉代表。現役時代、「とにかく授業づくりが大好きだった」と話す水野代表が描く学校現場の未来とは――。

立ち上げの背景は「教員の多忙さ」

 「せんせい市場」は、授業で使える教材や指導案をシェアできるサービス。今年4月から本格的にスタートし、指導案を中心にすでに1500点以上が集まっている。「いいね」機能やコメント機能もあり、気に入ったものには反応を残せる。水野代表は「料理人が食材をワクワクしながら探しに行く市場のように、教員が授業のネタを楽しみながら探せる場所にしたい」と意気込む。

 サービスを立ち上げた背景には、学校現場で感じた教員の多忙さがある。初任で地元、愛知県の公立中学校に赴任した水野代表。「とにかく授業づくりが大好きだった」と振り返るように、自主的に深夜や休日にも熱中して授業準備に取り組む教員だった。一方で周りを見ると、生徒指導など他の業務や子育てなどに追われ、明日の授業準備すらままならない同僚が少なくないことに気付いた。

 「私は当時、時間があったから取り組めた。プライベートの事情がある人や、生徒のケアなど他の業務に追われる人もおり、『授業準備をしたいのにできない』と苦しんでいた。私が頑張れば頑張るほど、時間が割けない先生へのプレッシャーになっているのではないかと複雑な思いだった」と振り返る。そうした思いから、困っている後輩たちに授業スライドをシェアするようになった。

 時を同じくして、新任の頃に目をかけてもらった先輩教員が、異動先の学校で過労の末に休職したことを知った。生徒や授業のことについて熱く語り合い、失敗に落ち込む水野代表を全力で励ましてくれる頼りになる存在だった。

 「あんなに熱意のある先生が追い込まれてしまうのか」とショックを受けた水野代表は、学校の枠組みを越えて教員同士が助け合える仕組みをつくりたいと、「せんせい市場」の構想を本格的に温め始めた。

「せんせい市場」が教員の多忙さを解決する一助になればと語る水野代表=撮影:板井海奈

「パクった」だけにならないために

 とはいえ「本業は授業」と言われるほど、教師にとって授業づくりは肝要なものだ。自分で努力を重ねて研究するべきだという意見も、根強くあるだろう。

 水野代表も「私も教師の本業は授業だと考えます」としつつ、こう語る。「教員は目の前の児童生徒にどう伝えるかのプロフェッショナル。先人が研究してきた教材という資産を土台にし、『自分の授業ではどう活用しよう』とオリジナルを加えることで、クリエーティブで上質な授業が生み出せるのではないか」と指摘する。

 加えて子育てや介護の両立に苦慮したり、他の業務に忙殺されたりと、明日の授業準備もままならない教員の存在も忘れてはならない。「そういった人たちに無理やり一人で抱え込ませても、明日の授業がおろそかになって児童生徒が不利益を被ってしまうだけ。『しんどそうだから手伝うよ』と、隣の同僚を助けるような存在として活用してほしい」と、一時的な受け皿を用意する必要性を強調する。

 一方で、活用の仕方を間違えてほしくないという思いもある。「そのままアウトプットするだけでは、いわゆる『パクった』だけになってしまう。参考にしたものに自分のアイデアを加えて初めて、活用できたことになると思う」と話す。

作り手と実践者、それぞれ活躍する仕組み

1500点以上の指導案が集まっている「せんせい市場」
1500点以上の指導案が集まっている「せんせい市場」

 また水野代表は、教員の得意・不得意に着目する。「例えば授業の作り手としてのアイデアは豊富にあるのに、話すことが苦手で授業で評価されていない先生もいるのではないか」と指摘する。それとは逆に話術に長けた教員が、誰かが作った上質な教材を生かして授業することで、児童生徒の理解が深まるケースもあるかもしれない。「脚本家と演者のように、授業の作り手と実践者それぞれが活躍できる仕組みが生まれると、児童生徒の学びがさらに深まるかもしれない」と構想を明かす。

 ただし、サービスの普及には課題もある。個人情報などの観点から、自作の教材や指導案を公開することにためらいを感じる教員も少なくない。「日本中の学校に素晴らしい授業はたくさんあるけれど、シェアし合う文化がまだまだ根付いていない」と水野代表も指摘する。

 その上で「隠れた名授業を光の当たる場所に出したい。日本中からそんな教材が集まれば、先生たちももっとワクワクしながら授業準備ができるように思う。そして授業づくりに励む先生たちが評価されたり、交流できたりする場所に育てていきたい」と構想を明かす。

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