生成AIを使いながら、リテラシーを高めていこう--。東京都練馬区立大泉中学校(大槻亨校長、生徒755人)で7月9日、1年生を対象とした生成AIリテラシーの授業が行われた。生成AIができることや、その仕組み、使う上での注意点などついて、ワークも取り入れながら学んだ生徒ら。「具体的な分かりやすい指示を出さなければ、うまく回答してもらえないというのは、人間と同じだと思った。自分の知らないことを生成AIに深めたり、広げたりしてもらい、探究学習に生かしていきたい」と今後の活用に期待を膨らませていた。
同校は、今年度の文部科学省リーディングDXスクール生成AIパイロット校に指定された。コンテンツフィルタリングや機械学習のオプトアウトなど、安全な利用環境で使用できる生成AIサービス「スタディポケット」を導入し、1年生も含め、全学年の生徒が生成AIを使用できる。
5月末には教員向けの生成AI研修を行い、先月は2年生、3年生に生成AIリテラシー授業を実施。この日は道徳の授業を活用し、同校の山本康太教諭が1年生232人に生成AIリテラシー授業を行った。
山本教諭は生成AIができることとして、情報収集や情報整理、文章の骨子の作成、文章の要約、企画のアイデア出しなどを紹介し、「言語、画像、音声に関わることは、身体を伴うこと以外、何でもできる」と説明。画像生成やテキスト生成、音声生成など多様な生成AIがあり、それらを組み合わせた実用的なサービスが誕生しつつあることも紹介した。
また、生成AIの仕組みについて、「プロンプト」と呼ばれる指示文を入れると、ウェブ上の文書など大量のデータを学習し、前後のつながりを効率的に理解しながら回答を生成する「トランスフォーマーモデル」であることを説明。「生成AIのトランスフォーマーモデルと、人間の脳は非常に似ている。人間の脳の構造を模して開発されたのが、生成AIだ」と話した。
一方で、生成AIを使っても「期待する答えが出ない」など、「使えない」と感じる場合もあるとし、「その場合は、生成AIが苦手なことをさせているか、使い方が間違っているか、どちらかだ」と述べた。
ここで、生徒はワークに挑戦。山本教諭からの「三角を1つ」「丸を2つ」「四角を3つ」という指示に沿った図を、それぞれが生成AIになったつもりで、紙に書いていった。
それぞれが書いたところで、近くの人と書いた図を見比べてみると、ほとんどが違う図を描いている。「えー、全然違う!」「いや、こうだと思う」などと、生徒たちは盛り上がる。山本教諭が書いてほしかった「正解の図」をプロジェクターに映し出すと、生徒たちからは「そうだとは思わなかった!」などと声が飛んでいた。
「思っていたものと違う、間違っているものが出てくることなどを、ハルシネーションという。ただ、今のワークは、みんなが悪いわけじゃない。先生の指示があいまいだったから、ハルシネーションが起きた」と山本教諭が明かすと、生徒たちも納得した様子。
ハルシネーションが起きないためには「正確に相手に自分の思いを伝える力」が必要だと話し、「言語力や、それぞれの教科の基礎知識や技能が必要になってくる。そうした土台があった上で、生成AIをうまく活用することができる」と強調した。
最後に今後、生成AIを正しく使うための注意点として、▽AIの回答が正しいか、きちんと調べる▽個人情報は入れない▽自分で考えるためのヒントにする▽大人からアドバイスをもらって活用する▽AIが作ったものをそのまま使わない――の5つが示された。
山本教諭は「生成AIは便利だけれども、使う人のリテラシーの養成が大切だ。生成AIはあくまで道具の一つ。ただ、これからは“使わない”という選択肢はない。使いながらリテラシーを高めていってほしい。大切なのは、どう使うかだ」と強調した。
これまで生成AIを使った経験がないという生徒は「今日の授業を受けて、難しさと楽しみの両方を感じた。使い方が大事だと思ったので、それを頭に入れて、授業でも家でも活用していきたい」と意欲を語った。
また、「AIが作ったものをそのまま使わない」ことが一番印象に残ったという生徒は、「これまで例えば著作権などは、意識したことがあまりなかった。そういうことに気を付けながらも、生成AIを使うのが楽しみ」とワクワクした様子。
自宅でも生成AIを使っているという生徒は「具体的な指示を出さなければ、生成AIもうまく回答してくれないということが頭に残っている。AIだったらなんでもやってくれるように思っていたが、人間と同じなんだなということが良く分かった。AIを使う時以外にも、ちゃんと具体的な指示を出したりすることを意識していきたい」と話した。
今後は、生成AIの活用にチャレンジしたい教員から、それぞれの教科で活用を進めていく予定だ。授業以外にも、3年生の進路指導などにおいても活用を検討している。
英語科の山本教諭は「すでに英会話や音読練習は別のAI『WorldClassroom』を活用しているが、『スタディポケット』は英作文などで活用するなど、用途に合わせて使い分けていきたい。また、総合的な学習の時間や道徳の授業では、生徒の考えやアイデアを深めるための壁打ち相手としての使用も考えている」と展望を述べた。