AI時代の子どもの夏休み 価値ある5つの体験(小宮山利恵子)

AI時代の子どもの夏休み 価値ある5つの体験(小宮山利恵子)
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夏休みこそ経験したい「偶発性」や「不便さ」

 デジタル化やAI活用が教育現場でも進み、効率よく便利に学習できるようになった現在、五感を使った体験の重要性は増している。学校の枠組みを離れて自由に過ごせる夏休みは、そのような体験をする絶好の機会だ。そこで、主に小学生の子どもたちの夏休みの過ごし方として、AI時代に価値がある5つの体験を提案したい。

 1.偶発的な体験に身を委ねる

 子ども時代、夏休みは一日中、外で遊んでいたという大人は多いのではないだろうか。かく言う私も、自転車を乗り回して野原で虫を追い、川で魚を捕る日々を過ごしていた。学校教育では一つの正解を求められることが多いが、遊びには正解がない。社会では正解のない課題ばかりであることを考えると、遊ぶことにも大きな意味があると思う。

 時には、あえて「暇」や「退屈」をつくり、その時間を受け入れてみることも大切だ。家庭で過ごす際は、習い事やイベントなどの予定を何も入れない日を意識的に設け、子どもが時間を持て余して「つまらない」と言ってきた時に「何をしてみる?」と疑問形で返すなどの環境づくりがあるとよいだろう。

 そこから、友達と協力して身近にある材料を工夫し秘密基地を作ったり、「卵は水に浮く?」「氷はどうすれば溶けにくくなるか?」のような素朴な疑問を自分の手で試してみたりする中で、遊びのような学びが生まれるかもしれない。学校のカリキュラムのように計画的な学びではないが、偶発性に身を委ねる中で創造性が育まれるのではないだろうか。

 2.自然と向き合い、不便を楽しむ

 キャンプをはじめとする自然体験活動には高い教育効果が認められている。キャンプインストラクターの資格を持つ私自身の経験と観察からも、スケールの大きい自然と向き合うことが、子どもたちの感性を育てるという確かな感覚がある。

 中でもポイントは、現代の日常生活にはない、数多くの不便があることだ。便利さを手放すことで、火がうまくおこせない、飯ごうで炊いたご飯が硬い、夜は暗闇の中で歩くのも難しい……。当たり前だと思っていたもののありがたみを、身をもって知ることになる。そんな思考と感情を揺さぶる不便さの体験は、宝物のように貴重だ。

自由研究のテーマを毎年変える必要はない

 3.子ども自身の問いから始める自由研究

 夏休み、自由研究に取り組む子どもも多いだろう。自分で問いを立てて考える力を育む自由研究は、研究成果の完成度より、試行錯誤するプロセスに意味がある。その効果をさらに高めるなら、保護者が「教える」より「一緒に体験する・応援する」という伴走者となれれば、なおよいだろう。

 また、設定するテーマは、必ずしも毎年変える必要はないとも考えている。例えば「虫が好き」「地域の文化に興味がある」など自分が好きなことをテーマにし、毎年継続して取り組むのも面白い。前年度の研究成果を踏まえて一歩ずつ深めることを何年も積み重ねることができたら、子どもにとって非常に大きな強みと自信になるだろう。

 4.保護者も一緒に「初めて」を楽しむ

 身近な大人が何かにチャレンジする姿を見ることは、子どもにとって最高の教育ではないだろうか。一児の母である私も、ビジネスの世界に身を置きながら、AIに取って代わられない力を身に付けるためにすし職人の修行をしたり、ふとしたきっかけから大学院で水産物流通について研究を始めたり、さまざまな挑戦を行ってきた。

 だからといって、壮大なことをしようと言っているわけではない。「初めて魚を一匹丸ごと買ってさばいてみる」「初めての博物館を訪れてみる」など、日常の延長で取り組めることでいいのだ。

 また、子どもが好きなゲームや習っているスポーツなどを、子どもに教えてもらいながらやってみるのも手だろう。家庭で「初体験デー」を設定し、全員で自然体験やものづくりに挑戦するのも楽しそうだ。

 5.社会と出会い、未来を思い描く

 近年、工場見学・職場見学を実施している企業が増えている。製造過程が見られるだけでなく、製品や技術についての解説や体験イベントの開催なども多く、子どもの探究心や好奇心を刺激する。企業の担当者に気軽に質問をして、問いを立てる力も身に付けられる。

 普段何気なく使っている製品には、実は、使いやすさを追求した数々の工夫や、多様なニーズへの細やかな配慮があることに気付くだろう。見学後は、近所のお店で同じような工夫や配慮がある商品を探したり、他にどんな改善をしたらよいかを家庭で話し合ったりし、体験と生活を結び付けられるとより効果的だ。

 さらに、仕事の現場にリアルに触れることは、家庭でできるキャリア教育と言える。働くとはどういうことか、自分は将来どんな仕事をしたいか、家庭で話してみてはどうだろうか。

効率だけでは育たない、生きる力

 お金をかければ「すごい体験」はいくらでもできる。しかし、お金をかけなくても「深く残る体験」ができれば、学びや成長につながるだろう。

 今回提案した5つの体験は、「非効率」なものも多い。カリキュラムに沿って効率よく学ぶことも必要だが、効率化を追うだけではできない体験もある。子どもたちには自由な時間が多い夏休みを使って、非効率だからこそ感情が揺さぶられる体験をたくさんして、生きる力を育んでほしい。

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