【解説】次期学習指導要領の基本方針① 構造改革と情報活用能力

【解説】次期学習指導要領の基本方針① 構造改革と情報活用能力
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 次期学習指導要領の方向性を検討してきた中教審の教育課程企画特別部会。9月5日の第12回会合で、これまでの議論をまとめた論点整理素案が示された。8章で構成される論点整理素案から、ポイントとなる考え方や制度の見直しをピックアップした。前半では、中核的な概念等を活用した学習指導要領の構造化と学習評価、情報活用能力を取り上げる。資質・能力をベースとしている点は現行の学習指導要領を引き継いでいるが、次期学習指導要領では目標・内容の示し方や「主体的に学習に取り組む態度」の評価など、より学校現場に寄り添ったものを目指している。

「中核的な概念等」による構造化

 現行の学習指導要領は全ての教科等を通じて、目標・内容が「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの資質・能力の柱で整理され、特に内容は「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」を中心に一定の構造化が図られている。「主体的・対話的で深い学び」による授業改善などで一定の成果が得られたものの、分かりにくいという指摘もあった。

 具体的には、個別の知識や技能の関連や各教科等の主要な概念の深い理解につながる「タテ」の関係や、「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」の相互の「ヨコ」の関係のイメージがつかみにくかった。本来は児童生徒や地域の実態からどのような力を身に付けてほしいかを考え、単元や題材を構想し、教科書や教材を使った1コマごとの授業をつくることが求められているものの、実際にはこうした分かりにくさによって、教科書「を」教える本時主義の授業から脱却しきれていなかった。

 そこで、論点整理素案では「各教科等の中核的な概念の深い理解」と「複雑な課題の解決」を中心に、学習指導要領の目標・内容の構造化をさらに進める方針とした(=図1)。こうした「中核的な概念等」の獲得に基づいて、学習内容を検討し、必要に応じて精選を行うとしている。

【図1】「中核的な概念等」による目標・内容の構造化
【図1】「中核的な概念等」による目標・内容の構造化

 例えば、中学校の数学科の「数と式」の中核的な概念等を考えてみると、「知識及び技能」における「中核的な概念の深い理解」は「数の範囲を拡張することにより、より広範な事象を一般的かつ明確に表し、計算が能率的にできるようになることを理解する」ことにある。それに基づき、正の数と負の数の四則計算などを学ぶ。そして、「思考力・判断力・表現力等」における「複雑な課題の解決」は「数の範囲を拡張し、それらの新たな数を用いて、日常生活や社会におけるより広範な問題を解決することができる」となり、例えば、学習した計算方法と関連付けて拡張した数についての四則計算の方法を考察し、表現することなどが具体的な学習内容として考えられる。

 ところで、現行の学習指導要領では各教科等の目標の中に、それらの教科等の「見方・考え方」が示されている。「中核的な概念等」とこの「見方・考え方」をどう整理するかも、特別部会の論点に挙がった。従来の「見方・考え方」には「各教科等の学びの深まり」と「各教科等を学ぶ本質的な意義の中核」の2つの側面があり、「各教科等の学びの深まり」は「中核的な概念等」による資質・能力の構造化によってより具体的に示しつつ、「見方・考え方」自体は「各教科等を学ぶ本質的な意義の中核」に焦点化して端的に示していくこととした。

 中核的な概念等に基づく構造化は、学習指導要領のスタイルそのものにも変化をもたらすことになりそうだ。論点整理素案では次期学習指導要領について表形式や箇条書きの積極的な活用を検討し、記載の冗長・複雑さの改善によるスリム化をすべきだとしている。

 さらにデジタル技術も活用することで、教科等間の関係や学年段階、学校種間の記載を俯瞰(ふかん)して捉えたり、学習指導要領コードを活用して学習指導要領とデジタル教科書の内容をひも付けたりすることも提案している。

「学びに向かう力、人間性等」の再整理と学習評価の見直し

 資質・能力の3つの柱のうちの1つである「学びに向かう力、人間性等」も再整理をする。「学びに向かう力、人間性等」の要素は、主に「主体的に学習に取り組む態度、メタ認知等」と「協働する力、持続可能な社会づくり、感性・人間性等」に大別できる。

 しかし、実際には多岐にわたる要素が列挙されており、全体像が分かりにくかった。近年注目されているウェルビーイングやエージェンシーとの関係を整理する必要もあった。

 この分かりにくさは学習評価にも影響を及ぼしていた。「学びに向かう力、人間性等」に対応した学習評価の観点として「主体的に学習に取り組む態度」が設定されたが、現行の学習指導要領の告示後に学習評価のワーキンググループが示した「主体的に学習に取り組む態度」の側面が「粘り強さ」や「自己調整」だったこともあり、本来はより大きな資質・能力であるはずの「主体的に学習に取り組む態度」が、「粘り強さ」や「自己調整」だけで捉えられるようになってしまった。

 そこで、今回はまず「学びに向かう力、人間性等」の要素を▽初発の思考や行動を起こす力・好奇心▽学びの主体的な調整▽他者との対話や協働▽学びを方向付ける人間性――の4つに整理。その上で「学びに向かう力、人間性等」は目標準拠評価ではなく、教育課程全体を通じた個人内評価として行う方法に改める。

 ただし、「思考・判断・表現」と前述の「学びに向かう力、人間性等」の4つの要素は親和性が高いことから、「思考・判断・表現」の過程で具体的にみとることができる要素が特に表出した場合には、「思考・判断・表現」の観点別評価に「〇」を付記することが提案された(=図2)。この「〇」を評定でどのように取り扱うかは、今後の検討課題となっている。

【図2】次期学習指導要領における学習評価のイメージ
【図2】次期学習指導要領における学習評価のイメージ

 これにより、教師による過度な評価材料集めを抑制し、一人一人の良さや成長を自然な形でみとることができると期待される。

情報活用能力を体系的に育成

 今回の改訂で大きくテコ入れが図られるのが、情報活用能力の育成だ。

 GIGAスクール構想の実現により1人1台の学習者用端末を利用する場面は増えているものの、現行の学習指導要領では、小学校は教科などによって明確に位置付けられておらず、授業時数や指導内容についても具体的に示されていないため、学校間の差が大きかった。さらに、中学校では技術・家庭科の技術分野の領域が、高校では情報科が情報教育を担っているが、小学校の指導内容との体系化が不明確だった。

 フィルターバブルやエコーチェンバーなど、デジタルの活用による負の側面や、AIをはじめとする先端技術の内容を取り入れていく必要もある。

 そこで、小学校では「総合的な学習の時間」に「情報の領域(仮称)」を設け、情報の活用を中心に一定の時間を確保して学ぶこととした。さらに中学校の技術・家庭科は教科を再編し、「情報・技術科(仮称)」を創設する。現在の技術・家庭科の技術分野には▽A:材料と加工の技術▽B:生物育成の技術▽C:エネルギー変換の技術▽D:情報の技術――の4つの領域があるが、D以外の領域でもデジタル技術の関連性を強め、Dは他の3領域の基盤として、生成AIやプログラミング、情報セキュリティーなどの特性の理解を重視する。高校の情報科も、小、中学校の内容の系統性を踏まえ、充実させていく。

 論点整理素案で情報活用能力は、探究的な学びを支え、駆動させる基盤として位置付けられており、情報活用能力の抜本的な強化によって「総合的な学習(探究)の時間」や各教科の探究の質を高めることを狙っている(=図3)。

【図3】情報活用能力と探究の関係
【図3】情報活用能力と探究の関係

【キーワード】

観点別評価 各教科の目標に照らして、児童生徒の学習状況を観点ごとに評価する方法。現行の学習指導要領では「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点が用いられている。現行の学習指導要領から、高校でも観点別評価を導入している。

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