ルールにさほど詳しくもない妻が、この頃やたらとテレビの野球中継を見るようになった。むろん二刀流で世界を席巻している大谷翔平選手が目当てである。今さらその活躍ぶりを取り上げるまでもないが、とりわけWBCでの神懸かり的なプレーは見る者に大きな感動を与え、妻のようなにわかファンを増やした。
次々に夢や目標を実現させる力はどこから湧いてくるのか。大谷選手が高校時代からある教育メソッドに取り組んでいたことは世に知られるところだ。「マンダラチャート」。目標を中心のマスに書き、その達成のために必要な要素を周りの8マスに、その要素を実現する具体的な行動を64マスに書くというものだ。
彼は、「体力づくり」「コントロール」「キレ」「スピード」「変化球」「メンタル」など8つの要素を掲げ、それを着実に実現させていった。その中に、「運」を入れ、運を高めるためにゴミ拾いを実践している。試合中にグラウンドに落ちているゴミを拾ってポケットに入れるシーンを度々見掛ける。
2019年6月24日号の本紙「こだま」で「夢を追うこと」について複雑な思いを書いた。かつて自らの夢を追うことこそ価値ある生き方であると教えた生徒が、人形劇の世界に飛び込んだ。生活すらままならない中で、夢を追い続けるという生き方の選択を陰ながら見守ることしかできなかった。
コロナ禍で多くのイベントが休止される中、S子から久しぶりにメールが入った。主宰する人形劇団の公演を開催するとのこと。心躍る気持ちで出掛けた。彼女の脚本・演出・出演による人形劇「BUDORi(ブドリ)」が上演されていた。宮沢賢治の実体験に基づいた物語『グスコーブドリの伝記』を人形劇に脚色。人と人形が融合した不思議な世界を描き出していた。夢を追ってそれを成し遂げようとするS子が輝いて見えた。
大谷翔平選手はかく言う。「人生が夢を作るんじゃない。夢が人生を作るんだ」と。