(読者の窓)幸せな瞬間

(読者の窓)幸せな瞬間
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 夢がかない、初めて教壇に立ったあの日から30年。今も変わらず、子どもたちの笑顔に癒やされ、その一生懸命な姿から多くの学びを得ている。

 先日の出来事である。走り高跳びの記録に挑戦する体育の授業。名前を呼ばれた挑戦者が「はい」と返事をすると、周りがしんと静まり、一気に緊張感が高まる。「がんばれ!」と声を掛け、手を合わせた祈りのポーズで応援する仲間。成功したときには拍手と歓声が湧き、惜しくもバーを越えられなかったときには、「よかったよ!」「もう少し!」と、励ましの言葉が掛けられる。そうした光景をほほ笑ましく感じているときだった。最初の一歩を踏み出せずにいるAがいた。「どうしたの?大丈夫だよ」と声を掛けるB。教科担任もAが安心できるようにと、丁寧に説明を加える。しかしAの目には涙がにじんでいる。初めの一歩がなかなか踏み出せない。

 「よし!みんな、後ろを向こう。Aちゃん、大丈夫だよ!誰も見てないよ」Bの機転で周りの空気がふっと軽くなる。周囲の温かな寄り添いで、Aはゆっくりと走り出し、バーに向かうことができた。あえて視線を外して応援する方法など、考えもつかなかった。相手を思い、共感し、尊重するBのしなやかな心がAの心を動かしたのである。子どもの輝く瞬間に出合い、職員とともに語り、その愛情を感じるとき、この上ない幸福感に包まれる。これからも、子どもたちが安心して自分らしく成長できるよう、温かな空間を創っていく。

 (滝塚聡子・常滑市立南陵中学校長)

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