教師力・人間力―若き教師への伝言(72)ピンチはチャンス

教師力・人間力―若き教師への伝言(72)ピンチはチャンス
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 「ピンチはチャンス」これまで何度も私を救ってきてくれた言葉です。そして、今もずっと私を支えてくれている言葉です。

 新任6年目、のんびりと落ち着いた小学校から、エネルギー溢れる中学校に転勤、3年生の担任になりました。始業式が終わり教室に入ると、「このクラスの鍵となる生徒だよ」と事前に言われていたAさんが一番後ろの席で腕組みをして座っていました。周りの生徒はニヤニヤとこちらを眺めているばかり。「そこは君の席ではないよね」声を掛けると、バーンと両手で机をたたき、こちらをにらみながら自分の席に戻り、机に突っ伏したまま帰りまで顔を上げることはありませんでした。

 次の日、いきなり教室を飛び出していったBさん。波乱のスタートでした。授業が始まれば、自分のクラスだけでなく他のクラスでも、「分からん」「つまらん」と何もしない生徒が1人、2人、3人と増えていきました。自分の未熟さ、力量不足のため、毎日のように問題が起こりました。生徒たちにも、その問題にもうまく対応することができず、毎日が苦しくて、いつの間にか表情は固まったまま、笑顔が消えていました。

 そんな時、先輩が私にこう声を掛けてくださいました。「ピンチはチャンスだよ。ピンチをチャンスにできるかどうかは君次第だけどね」ピンチはピンチでしかない、そう思っていた私はハッと思い、先輩方の様子に目を向けました。そこには、何か問題が起きたとき、それを絶好の機会と捉えて、前向きに立ち向かう先輩方の姿がありました。自分の失敗もオープンにして、問題の原因を探り、生徒のため、クラスのため、学校のために、よりよいイメージを描きながら、みんなで知恵を出し合い、力を合わせて奮闘する姿がありました。困難に前向きに立ち向かっていく先輩方の姿は大変頼もしく、安心感と信頼感がありました。そして、そう思うのは私だけでなく、生徒たちも同じでした。

 私もピンチをチャンスにすることができるのか、先輩に相談すると、「まず、考え方の癖を変えてごらん」「生徒が突っかかってくる?いいじゃないか。先生に関心を持って欲しいんだよ。明日から毎日必ず一声掛けてみたら?」「授業中寝てばかりの生徒がいる?いいね。授業のバロメーターじゃないか。その生徒が一瞬でも顔を上げたくなるような授業を目指してごらん。ワクワクするねぇ」という答えが返ってきました。

 その後も相変わらずピンチは続きました。しかし、「ピンチはチャンスなんだ」と考えることで、「よし!このピンチをチャンスに変えるためにはまず何をしよう」と前向きな第一歩を踏み出すことができるようになりました。悩んでばかりでは何も進みません。行動に移さなければ問題は解決しません。そして、助けてくれる人は必ずいます。ピンチはSOSを出すチャンスでもあることに気が付きました。全てがうまくいったわけではありませんが、これが駄目なら次はこの手、と試行錯誤を繰り返すうちに、同じ失敗は繰り返さないようになりました。そして、試したさまざまな手だて、工夫は、自分の糧となって以降に役立てることができました。ピンチは自分を成長させるチャンスでもあったのです。

 今でも、思わぬピンチが訪れることがあります。そんな時には鏡に向かってニッコリと口角を上げ「ピンチはチャンス」と唱えます。あなたを励ます言葉は何ですか?

(谷川洋子・稲沢市立坂田小学校長)

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