「信頼される教員」とは、どのような教員なのか。いつの時代も教員を目指した者であれば誰しも「信頼される教員」でありたいと願い、自らを磨き続けている。しかし、残念ながら多くの教員の懸命な努力とは裏腹に、一部の教員による不祥事が後を絶たず、根絶には至っていない。
愛知県教育委員会では、教員の不祥事防止対策プロジェクトチームの提言(2015年9月)を受けて、不祥事防止について全教職員に対してあらゆる機会に啓発・指導を継続して取り組んでいる。
今号では、不祥事の起きる原因、防止対策を探るとともに、愛知県教育委員会の取り組みについて紹介する。
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不祥事は、一つの原因で起きるものではない。不祥事を起こした人の行動の背景には、さまざまな要因が複合的に影響を与えている。一連の行動について、そのような行動をとるに至った背景や要因に着目すれば、不祥事を防止するヒントが見えてくる。
〇体罰
児童生徒を指導しているとき、つい感情的になり、体罰を行ってしまう傾向がある。体罰を防止するためには、指導の質を高め、学校全体で組織的に指導を行うとともに、教員間での共通理解を深める必要がある。
〇児童生徒に対するわいせつ行為
児童生徒に対するわいせつ行為は教員という立場を利用して行う卑劣な行為であり絶対に許されるものではない。児童生徒の心身への影響は大きく、信頼を著しく損ねる。早期発見、未然防止のために、何でも相談できる環境整備が重要である。
〇盗撮行為
スマートフォンの普及やカメラの小型化、高性能化を背景に盗撮行為に及ぶケースが増加している。職場における死角を作らないなど、盗撮行為ができない環境づくりが必要である。
〇個人情報の紛失
個人情報の取り扱いに関する事故は、ちょっとした不注意や出来心が大きな被害につながる。その原因として校外に持ち出したUSBや重要な個人情報の管理が不適切でずさんであることなどが挙げられる。学校全体での情報管理体制の構築が求められる。
〇不適正な公金処理
公金の横領などを防ぐには学校のあらゆる会計が私的なものではないことを全職員で再認識し、組織として複数によるチェック体制で適正な処理をしなければならない。
〇交通事故・速度超過
交通事故・速度超過は、毎年多数の事案が発生している。特に、運転時のスマホ操作や速度超過は、故意による危険行為であり、命にかかわる交通事故につながることを強く認識させ、何としても撲滅しなければならない。
〇飲酒運転
飲酒によって判断力を失えば、悲惨な交通事故につながる。懇親会などに車を運転していかないなど飲酒運転をしない状況にすることが未然防止となる。
〇パワー・ハラスメント
職務上の権限や職場内の優位性を背景にして、継続的・精神的・肉体的苦痛を与える言動をいう。パワハラ防止のために、相談窓口を設置するなど雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
〇情報モラル
SNSや電子メールは、生活に欠かすことのできない情報伝達ツールとなっている。反面、便利さの陰に情報漏えいやプライバシーの侵害などの危険も潜んでいる。教員は、児童生徒に情報の扱い方について指導する立場にあることを自覚し、正しく安全に利用したい。
〇著作権法の違反
絵画や音楽などの作品をコピーする際、原則として著作権者に了解を得る必要があるが、学校などにおいてはその公共性から一定の範囲で自由に利用することができる。しかし、認識を誤ると著作権法違反になることもあるので、著作権について正しく理解し適切な範囲で活用したい。
〇自らの仕事に対する誇り
教師による不祥事への世間からの批判は、他の職業と比べても非常に強い。それは、その使命にふさわしい行動を期待されているからに他ならない。
〇不祥事を自分事として捉える
「自分には関係ない話だ」とか「魔が差した」とかいう言葉を耳にするが、まさに不祥事を自分事として捉える当事者意識に欠けた言葉である。自分自身も不祥事を起こしてしまう可能性があることとして真剣に考える必要がある。
〇不祥事を起こさせない職場づくり
周囲の適切な対応があれば防げたかもしれない不祥事もある。そのためには風通しの良い職場が必要である。不祥事を起こさせない職場づくりのために、具体的な議論が必要である。
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県教育委員会の取り組み
県教育委員会では、前述したプロジェクトチームの提言を受け、教員による児童生徒へのわいせつ行為防止に特化した取り組みを進めている。
【取り組みのポイント】
(1)若年層の教員らを中心に据えた不祥事防止の働き掛けを強化する。
(2)わいせつ事案の中でも、特に自校児童生徒への不適切な行為を防止することを最重点課題と位置付け、対策を実施する。
(3)わいせつ事案に至らないよう、早い時期に発見・介入できる仕組みを整える。
(4)児童生徒に対して、セクシュアル・ハラスメントについての基礎知識を周知していく。
【具体的な取り組み】
(1)教員採用後、10年以内に実施する研修や、非正規教員を対象とした研修で、不祥事撲滅に向けた指導や啓発を充実・強化する。不祥事が周囲に与える影響の大きさを自覚できるよう工夫し、受講者一人一人に考えさせる内容とする。
(2)全教員に向けて啓発するわいせつ行為防止リーフレットを作成・配付する。自校児童生徒への不適切な行為をテーマとして取り上げる。また、ケースメソッドの題材となる事例も掲載する。
(3)児童生徒からのハラスメントなどに関する相談窓口を設置する。また、児童生徒の相談への対応や、教職員間での情報共有など各学校内の体制の充実に努める。
(4)中高生を対象にセクシュアル・ハラスメントをテーマにした啓発リーフレットを作成し、全生徒に配付し説明する。
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不祥事は、教員にとって大切な「信頼性」を損なう大きな要因となる。心ある人々は、「この先生なら子供を託しても大丈夫」と、大多数の教員が「信頼される教員」であることを知っている。こうした信頼に応え、裏切らないためにも、今一度全ての教員が不祥事の根絶に向け自覚を高めたい。