先日、友人の所属する合唱団の演奏会に誘われ、久しぶりに混声合唱の重厚な響きに浸った。「私もまた歌いたいな」という気持ちがむくむくと沸いてきた。学生時代も教員になってからも、吹奏楽団や合唱団に入り、舞台に立ってきた。子育てや仕事で忙しい時期はそんな余裕もなかったが、数年前からは聴く側として演奏会に足を運べるようになってきた。
プログラムの中に、とある合唱団の団員募集のチラシが入っていた。主にイタリア・オペラの上演を目的とした合唱団であった。私はその日のうちにQRコードを読み込み、次の日曜日にはもう練習会場で歌っていた。
長らく「教える」側であったが、久しぶりの「教えられる」体験は新鮮だった。「今、いい響きになったよね。どうやったらできた?」ふいに指導者に顔をのぞき込まれ、どぎまぎした。「ここはね、宴会から帰るだけなのにこんなに大騒ぎしてるの」「一つ前のせりふに『そうだ、そうだ!』って言ってるのよ」「貴族になったつもりで鼻高々で歌ってみて」プロのソプラノ歌手である彼女の言葉は、瞬く間に私をオペラの世界へと誘(いざな)った。
私の母も、長年民謡や小唄の舞台に立ってきた。年を取っても、舞台に立てば背筋がぴんと伸び、三味線や歌声を力強く響かせた。しかし、舞台やお稽古から遠ざかってからは、めっきり体が弱くなってしまった。
次の七夕には「椿姫」の舞台に立てるよう、私も背筋を伸ばして頑張ってみよう。
(森勢津子・名古屋市立笠寺小学校長)