2005年10月に中教審は、答申「新しい時代の義務教育を創造する」を出した。当時のいわゆる「三位一体改革」において、義務教育の費用負担の在り方が課題とされた中で、義務教育に係る国の責任の在り方や、教育水準の維持向上を図るための義務教育の在り方が審議された。総論では義務教育における国と地方の責任を明確にしながら、義務教育の構造改革を提起した。
義務教育の質の保証と向上のための国家戦略として、次の4点を挙げた。
これらを受け、答申の各論で示された事項は、その後の法令や施策を通じて実現が図られてきた。
06年の教育基本法の改正、07年の学校教育法改正において、義務教育の目的や目標が明確にされるとともに、国と地方公共団体の責任が明記された。06年には、義務教育諸学校における学校評価ガイドラインが作成・公表され、翌07年度には、全国学力・学習状況調査が実施され今日に至っている。
教職員の資質向上については、09年度から教員免許更新制が実施され、14年の地方公務員法の一部改正により、能力や業績に基づく教員評価が行われることとなった。また、15年の学校教育法の改正によって、義務教育学校が制度化された。
このように答申で目指した多方面にわたる「構造改革」は着実に実施されてきた。
それでは、義務教育の質保証と向上に向けた今後の課題はどのような点にあるのだろうか。
一つは、義務教育終了までに限りなく全ての児童生徒に、習得すべき資質・能力を身に付けさせるための取り組みの検討である。
このためのアプローチには、少人数指導や習熟の程度に応じた指導、指導と評価の一体化、教員の指導力の向上、その他多様な取り組みが進められてきた。
これらは多くの学校で実践している取り組みであるが、まだ残された課題は多いのではないか。
例えば、08年1月の中教審答申で示された、「重点指導事項例」について、その実践的意義も含めて検討することが考えられる。
答申では、学習指導要領の中で、社会的な自立の観点や子供たちがつまずきやすいといった観点から重要である点について、各学校において重点的な指導や繰り返し学習といった指導の工夫や充実が求められる事項の例を「重点指導事項例」として整理し、提示することが考えられるとした。
この「重点指導事項例」の具体化に向けた基礎的な検討も今後の取り組みの一つと考える。
第二に、制度化された義務教育学校の教育実践の蓄積も踏まえ、9年間の義務教育カリキュラムの在り方の抜本的な検討を進めることである。
これまでの教育活動は、学年および学級と教育目標・内容、学習評価を組み合わせた形で展開されてきた。義務教育学校では、この区分に加えて複数学年の区分を設定している。また、各教科の9年間を見通した連続性や一貫性などのカリキュラム運営に関わる知見が蓄積されてきた。
各教科の指導に当たっては、「重点化」「精選」「繰り返し」「スパイラル」「個別化」などの工夫が行われるが、これらの取り組みを整理することによって、学力定着に向けた指針が明確になるのではないか。
第三は、義務教育段階の学習内容の確実な定着に向けた取り組みは、高校の教育課程において既に明確にされている。むしろ、小・中学校における学習内容の確実な定着を図る指導計画の構造や授業時数の在り方について、検討する必要がある。
例えば、学校教育法施行規則で示す標準時数と基準として示す指導事項の関係を整理し、授業時数に学び直しの時間を確保できるようにすることなどが考えられる。
また、中学校の教育課程において、小学校の学習内容の学び直しを行える仕組みを設けることも考えられる。