新型コロナウイルス感染症の国内での感染がようやく落ち着きを見せ、休校措置が取られていた小中高校などで学校再開が進んでいる。とはいえ、今後も感染第2波、第3波の発生が考えられており、予断は許されない。休校が長期化した中で、一部の都道府県知事などが「9月入学」制の導入を主張しており、本紙電子版5月8日付などでも報じられているように、文科省や政府与党でも検討が進んでいる。他方で、非常に大きな改革となることから、一部知事や有識者、PTA、校長会などは慎重姿勢をとっている。このように注目されている「9月入学」論であるが、議論がかみ合っていないように思われる。文脈によって「9月入学」の具体的なイメージが大きく異なっており、いわば別々の「9月入学」論について議論がなされている状況に陥っている。「9月入学」といっても、いつどのように移行するのか、関連する制度をどこまで変えるのか、などのイメージがばらばらなまま、「今年度9月まで何もしなくてよいこととなる」「大学4年生の就職が遅れる」「義務教育開始が7歳5カ月の場合が出てしまう」などの意見が出ているが、こうした点は本来、具体策を踏まえて検討されるべきものだ。ある政策の是非を議論する際に、推進派が具体策を提示し、慎重派も具体策をもとに論じることは、政策ディベートの基本である。例えば、次のような具体策を想定して議論してはどうだろうか。
このように具体策を想定すれば、かみ合った議論がしやすいであろう。
上記具体策のメリットは、これまで言われているような海外留学の対応のしやすさ、今年度の教育課程の無理の少ない実施や休校期間中に実施できなかった行事の実施がしやすくなることに加え、入試時期がインフルエンザや雪害の時期を避けやすいこと、夏休み明けの不登校や自殺などの問題が生じにくくなると考えられること、なども考えられる。8月から先行して新任教員の研修や教員間の引き継ぎを行うこととすれば、新任教員が数日のみの準備でいきなり教壇に立つ状況を変えることができる。また、年間計画を抜本的に見直すことを通して、教員の働き方改革を念頭に置いた業務削減の契機にもなり得るだろう。逆にデメリットは、ほぼ費用と手間の問題しか残らないのではないか。費用については国民的合意によって政府が中心に負担することとし、手間については5カ月長くなった今年度の中で対応するしかない。このように考えると、議論はかなり焦点化されるように思われる。すなわち、ある程度の費用と手間をかけて9月入学制への大転換を図るか、大きな変更は避けて夏休みの大幅短縮や次年度以降までの教育内容繰り越しといった策でこの難局をなんとか乗り切ることを目指すかという点にこそ、議論の焦点が絞られるべきであろう。私としては、夏休みの大幅短縮などの無理をするよりは、早い段階で9月入学制への移行を決め、前向きに改革を進めるべきだと主張したい。